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サイト管理人のブログです。

 

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 つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば…、古典を引き合いに出すまでもなく、人が人として日々生きていれば何らかの感興を抱き、それを文書にして残したいと思うものです。不動産業者のブログにふさわしい題材を選んで、書き連ねていこうと思います。ご笑読下されば幸いに存じます。

  2017年 盛夏

 

長い間ご愛読いただき有難うございます。

 これまで不動産業に関わる者としての視点から、様々な不動産業に関する法律の不整備や登記法の不整備を指摘してきました。もちろん不動産業界の問題点や今後の期待するところなども日々の実務を通してブログに書き連ねてきました。
 そうした一環で法律の不整備に関しては「登記簿上の所有権者と実際の所有者が合致しない問題」や「登記簿上の所有者が他界したまま放置されている点」さらには相続放棄した不動産の早急な処分が可能になるような法整備の必要性なども指摘してきました。
 不動産業界に対してはネットなどで全国展開する不動産業者が契約書や重説などの「対面説明」義務をいかにして果たすのか、といった問題提起をしました。さらに廃屋や空家問題に関して固定資産税の関係から更地にしないで放置したまま防犯や環境に悪影響を与える家屋等に関して、行政の強制力強化が必要だと提起しました。そうした問題も空家になって放置した場合の期間制限が設けられるなど、ある程度の解決の糸口が用意されたと思います。
 今後の問題としては外国人に土地棟の販売を制限する法律の整備がなされるのか、という点と、九州と同程度の面積の土地が登記上所有者がいないという問題に関して、国はいかなる見解を示すのかという点に関心があります。一定の指針を示して全国地方自治体と法務局が協力して、全国の土地の所有者を特定していかなければ、全土の有効利用に何らかの支障が出ると思われます。さらに登記簿上の所有権者が現存しない場合の「経過措置」を短縮して、地方自治体と協力して一日も早く登記簿上の所有権者が実際の所有者と一致するようにすべきではないかと強く思います。
 先祖から継承した日本の国土の健全な有効利用と、子々孫々に継承していく不動産が健全なものとして引き渡せるようにするのが今を生きる私たちの責任であり、不動産業に関わる者の務めではないかと思いつつ、このブログを終えます。

令和五年三月

 

不動産業界の課題


近年の不動産業界は、地方と都市部との間で二極化が続いています。
 地方では人口減少や少子高齢化に拍車がかかっており、売りに出してもなかなか売れない物件も増えてきました。タダでも売れない不動産も存在し、地方の不動産を手放せなくて困っている人も増えています。
 一方で、都市部では東京を中心に近年は不動産価格の高騰が続いています。2021年における首都圏の新築マンション価格はバブル期の記録を超えました。都市部のマンション人気は高く、中古マンションも売りに出すとすぐに売れる状況です。
直近の不動産業界では、新型コロナウイルスが大きく影響しています。テレワークが一気に普及したことから、働き方や住まいのあり方が1~2年の間に激変しました。
 テレワークを行うために、家の中に仕事部屋が必要となったことから東京都内在住だった方でも広い間取りを求めて千葉県や埼玉県の郊外に移り住む人たちが増えています。2021年は東京都でも26年ぶりに人口が減ってしまった状況です。
郊外に移り住んだ人たちの中には、通勤の必要性がなくなったことからわざわざ不動産価格の高い東京に住む必要がなくなり、郊外に移った人もいます。東京では、住宅価格の高さが原因となって人口が減ってしまったとも考えられます。東京一極集中は今後も続くと思われますが、少し変化の兆しが見え始めた状況です。

オフィスの賃貸需要の減退
テレワークの普及でもう一つ問題として浮上してきたのがオフィスの賃貸需要です。大手企業の中には、新型コロナウイルスが収束してもテレワークを継続すると宣言している企業もあり、テレワークは今後の働き方の一つとして定着する可能性があります。
 大企業もオフィスの賃貸借契約を解約する動きが出始めており、都内でもオフィスの賃貸需要の不透明感が増してきました。都内のオフィスビルは2023年に大量供給されることから、賃貸需要の減退が懸念される「2023年問題」がささやかれています。

不動産業界の課題
 近年の不動産業界では、価値のない不動産を表す「負動産」が増加しています。空き家の増加や所有者不明土地の増加が社会的問題となっており、国としても近年は空き家や所有者不明土地を解消するための法律を立て続けに作っている状況です。
 所有者不明土地とは「不動産登記簿等の所有者台帳により、所有者が直ちに判明しない、または判明しても所有者に連絡が付かない土地」を指します。
 空き家に関しては2014年11月に「空き家特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」が公布され、所有者不明土地に関しては2021年4月に「相続土地国庫帰属法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)」等の関連法案が2021年4月に公布されました。
 自治体が放置されている空き家の所有者に指導、勧告、命令を出したり、相続等により取得した土地を国に引き取ってもらえたりするようになり、行政による空き家対策も進んでいます。
 従来不動産はプラスの資産であると考えられていましたが、一部の物件は持っているだけで負債となってしまう負動産として捉えられるようになってきました。 今後は負動産にも対応していくことが、不動産業界の課題です。

令和五年2月

 

 







 

若者よ、田舎へ移住して農業を始めよう。

 令和五年、明けましておめでとうございます。
 これまで農地の取得に農業従事者で尚且つ耕作面積が30a以上とされていた基準が農水省の指導で10a以上に緩和されていました。それでも都会の若者たちが地方の空家を取得し、同時にその空家に付随して農地を取得して農業を始めるのに「10a以上の農用地の耕作実績」はかなり高いハードルでした。
 それでは農業を目指す若者が田舎に移住して、農業を始めるのは困難です。
 そうした事情を勘案したのか、農地法第3条第2項の「下限面積要件」については、2022年9月に国会で成立した「農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する法律(令和4年法律第56号)」第5条の規定に基づき、10a基準が削除されることとなりました。ただ、同法の施行日は、令和5年4月1日であり、本法律が施行されるまでは引き続き農地を取得する際の下限面積要件は適用されることとなっております。
 つまり今年4月以降は都会の若者が「営農計画書」や「宣誓書」等を添付して農地法第三条申請を行えば、田舎に移住して農業を始めることが可能になりました。地方を蘇らせ、尚且つ食糧問題の解決にいささかでも協力できる法整備がなされることになり、歓迎すべき法改正ではないでしょうか。若者よ、田舎へ移住して農業を始めよう。

令和五年 元旦

 

 

不動産登記の本人申請

 不動産業に長年従事していると、不動産取引の場で様々に人と出会います。近頃の携行として、不動産購入者で所有権移転登記を本人申請地で実施したい人がたまにいます。法務局も本人申請を前提としているのか、ホームページに「申請書式」が掲載されていて、しかも説明資料として丁寧な「書き方」まで添付されているから、本人申請したい人にとって心強い限りではないでしょうか。
 本人申請したい人の特徴はおおむね以下の通りです。まず知的好奇心の旺盛な人で、さらに平日に本人申請する時間が取れる人、という条件があるようです。もちろん司法書士に支払う手数料が惜しい、という人もいるような気がします。
 ネット上では本人申請の「手引き」は殆どなく、多くは司法書士事務所が「安く登記を引き受けます」といった宣伝が多く、あまり参考にならないのが実態です。
 本人申請する場合に気を付けることの第一は事前に申請書と付属書類をアウトプットして、すべての項目を書き込んでおく必要があります。なぜかというと、取引の場で売却人(登記申請書では「譲渡人」という)の実印や印鑑証明、さらには登記簿謄本に記載してある譲渡人の住所と印鑑証明の住所が異なる場合には登記簿上の住所から印鑑証明の住所へ移転したことを証する住民票を揃える必要があります。さらに購入物件の固定資産税評価額を記した「固定資産税明細書」の写しを譲渡人から貰う必要があります。それは登記する場合の「課税価格」と「登録印紙税」の算出に必要な資料となります。さらに、取引する不動産の代金支払いの際に受け取る「領収書」も登記申請に必要となります。そうした揃えておくべき書類を取引の前に確認しておくこと失敗がないでしょう。
 もちろん不動産を購入した本人(登記申請書では「権利人」と称す)が申請するのですが、譲渡人も一緒に法務局に出向かないのなら譲渡人の委任状も必要となります。諸々の書類の書き方は法務局のホームページにある「書き方」の注書き通りに記入して下さい。そして申請当日には申請書類に押した印鑑を持参することを、お忘れなく。

令和4年師走

 

 

固定資産税について考える。

 固定資産税の課税対象物は(1)土地、(2)家屋、(3)事業用資産(償却対象)の三つになります。「土地」とは、宅地、農地、山林など、「家屋」とは、住宅、事務所、店舗、倉庫、工場などで、「事業用資産」とは、各種の機械、設備品、空調機器など、法人税で減価償却の対象となる資産をいいます。ただ自動車は対象外です。
 これらの資産は登記により、市町村の「固定資産台帳」に細かく記載され、これをベースに課税されます。この台帳に所有者が登録されていない資産は課税されません。この登録資産の評価額を決め、一定税率を掛けてその課税額が決まります。原則1月1日時点で、これらを所有していた人に対して課税します。
 市街地にある宅地の場合、その宅地が面している道路の「固定資産路線価」がまず基礎になります。国税庁はこの道路に面している土地の1平方㍍当たり価格を毎年公表しています。路線価がない地域は別の「倍率方式」で計算することになります。この路線価は、売買価格を参考にした地価公示価格の7~8割に設定されています。そのため所有する土地の評価額は、下記のようになります。

■固定資産路線価×補正率×土地の面積

補正率とは、土地の形状(道路面が狭小な土地、不整形な土地、工場隣接地)により、一定割合が減額計算される仕組みです。この土地の評価額(「課税標準」)に、固定資産税率(通常は1・4%)を掛けた数値が固定資産税額になります。しかし宅地には、宅地の固定資産税負担を軽減する「住宅用地の特例措置」があり、実際の税額は、この計算値よりも低く設定しています。仕組みが非常に複雑なため、補正率や特例措置が見落とされると、本来負担すべき税額よりも高くなる徴税ミスの原因にもなります。また家屋の場合は、構造、材質、築年数などから評価額は算定されます。
 同時に、固定資産税と同時に徴収される「都市計画税」、土地などを相続、贈与を受けた際の「相続税」「贈与税」、土地などを取得したときに課税される「不動産取得税」など、固定資産税の金額をベースに計算されます。固定資産税の税額に誤りがある場合は、これらの税にも影響します。

固定資産税を考える場合に、問題点があります。主なものとしては、
(1)税額評価の内容が非常に難解
 固定資産税の税額の計算過程が、納税者からみると極めて難解という問題があります。全国的に土地価格が下落傾向にある中、評価額が大して下がらず、その評価方式に疑問が呈される場合もあります。また土地の形状などによる補正率があるときは確認が必要です。納税する側が、固定資産税の課税内容をより理解できるための方策も必要になります。
(2)売却出来そうもない土地も課税対象に
 地方などで多く見受けられる、実際に売ることが困難な土地、放置された土地にも、相応の固定資産税がかかります。そのため実態が反映されていないケースも目立っています。一方で相続などが発生しても、登記されずに課税台帳に記載できずに、課税されていない土地もかなり増えているようです。
 このため、実際には売りにくい土地を所有しているために、思いがけない固定資産税が課税される人がいる半面、登記をしないために固定資産税が課税されず逃げ得をしている人もおり、不公平感が生まれてきます。国も相続(遺言による場合を含みます。) によって不動産を取得した相続人は、相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならないこととされましたが、国民に周知徹底されなければ今後ますます未登記の土地が増えることが懸念されます。

 所有者不明の土地を減らすことは大切ですが、未登記の土地が増え土地取引自体が難しい地域では、土地所有=徴税という公式的発想を再検討する必要が出てきています。 固定資産税については、納税者は自分の所有する土地がどのような土地なのかを、よく認識しておく必要があります。徴税に関する情報はすべて納税通知書に記載がありますので、こうした観点から通知書を見ましょう。そうしないとそれは次に掲げる「特典」を見逃している場合があるかも知れないからです。
(1)宅地の特例措置が受けられているか
 この条件が適用されると、宅地の面積に応じて固定資産税額が減額されます。この対象地域となっているかを確認しましょう。
(2)形状の悪い宅地の場合に、その内容が補正されているか
 実際の土地が、傾斜地にある、崖の上にある、間口が狭い、などの場合、それぞれに応じた補正率があるので確認しましょう。複数に該当する場合は、個別に確認します。
(3)宅地の間口・奥行が変更後も正しく評価されているか
 以前広かった土地を分筆することで土地の形状が変わり、間口が狭くなった場合は、税額が安くなります。従来の基準で課税されると、税額が高くなってしまいます。
(4)過去に事務所・店舗だった建物を、住宅に用途変更していないか
 これまで事務所や店舗として使ったところを住宅として使用すると、税額が変更になり安くなります。住宅の特例措置も受けられます。

 少なくとも、以上の点をチェックするだけでも、固定資産税を取られ過ぎていないかを判断する材料になると思います。固定資産税納付書を見直すだけでも生活防衛の一助になるかも知れません。

令和四年11月

 

 

滅失登記とは

古民家ブームについていくつかブログを書いてきましたが、今回は建物がないにも拘らず、建物の滅失登記が行われていないケースについて書いてみようと思います。 いうまでもなく建築物を解体処分したり、火災で焼失などで滅失したときには「滅失登記」を行って登記を閉鎖しなければならないのは云うまでもありません。
滅失登記は建物の解体後1ヶ月以内に行わなければなりません。申請を怠ると、10万円以下の過料(罰則)に処せられることもあるため注意が必要です。(不動産登記法第57条、第164条)しかし、現実には、滅失登記をしないまま登記簿上に建物が残っていることがあるため注意が必要です。
 そこで管轄の法務局に登記申請書を提出する場合について必要書類ですが、滅失登記に必要な申請書類は次の通りです。

1,建物滅失登記申請書
2,(申請を代理人に頼む場合は)委任状
3,建物滅失証明書
4,解体業者証明書及び印鑑証明書
5,建物周辺の地図
6,現地写真
7,建物の登記簿謄本及び図面

 等の申請書類を2部作成し、所轄の法務局に提出します。
 ただ問題なのは「建物滅失証明書」の取得です。もちろん滅失登記を行う場合は解体工事の請負人から「建物滅失証明書」を提出してもらって滅失登記申請書に添付するのですが、解体から時間が経過して工事業者がわからなかったり、入手した証明書を紛失したりするなどして、「建物滅失証明書」が取得できない場合があります。 そのような場合は所有者が作成する上申書を添付して「建物滅失証明書」の代わりに添付して登記するケースがあります。 

上申書の作成
 一般的には建物を特定できる情報や建物が存在しない旨などを記載し、実印を押印のうえ印鑑証明書を添付します。
 ただ亡くなった人が滅失登記をしていなかった場合の取り扱いですが、相続人は滅失登記の申請義務を引き継いでいるので、相続人が滅失登記を申請することになります。
「標題部所有者又は所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、当該表題部所有者又は登記名義人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人は、当該表示に関する登記を申請することができる。」と不動産登記法30条に定めてあります。
 亡くなる前に取り壊している場合は、そもそも建物を相続していないので、相続登記は気にしなくて良いです。

令和四年10月

 

 

 

 

地域に生きる不動産業者の未来は。

 不動産業界を取り巻く未来予想は明るくありません。根本的な原因には人口減が上げられます。、人が減少していく中で不動産需要が拡大する、と予測する評論家は一人もいません。現実に財務省の「年次別法人企業統計調査」によると、不動産業界全体の売上高は2018年46兆5,363億円(対前年比+7.1%)だったものが2019年に45兆3,835億円(対前年比-2.5%)、2020年44兆3,182億円(対前年比-2.3%)と2018年をターニングポイントとして減少へ転じています。
 それは国土交通省の「住宅経済関連データ」の「新設住宅着工戸数の推移」を見ても明らかです。2009年には775,000戸まで落ち込んでいましたが、翌年から増加に転じて、2019年まで緩やかに上昇し2018年には935,000戸にまでなっていました。しかし翌年にはコロナの影響もあって2020年は812,000戸まで激減しました。コロナ禍が終息したとして、果たして新設住宅着工戸数が回復するのか、確実に見通せる材料は何もありません。
 不動産業界の未来に確実に影響を与えるのは高齢化と少子化ではないでしょうか。残念ながら両方ともブラスに働くとは思えません。むしろ衆目を集める不動産関連ニュースは「廃屋問題」や「空家問題」などではないでしょうか。しかし資源の活用や地域環境の保全、といった観点から中古住宅を見直す潮流も出て来ています。テレビ報道などで特集されることもありますが、古民家の再生や空家リフォームなどです。
 中古住宅を積極的に買い取り、それを再生して販売する「ゼロ円住宅再生」などといったyou tubeが結構な人気を博して、再生回数も伸びているようです。もちろん不動産投資の一形態ですから、それなりのリスクがあることも承知しなければなりませんし、需要予測を間違ったら丸々損を抱え込むことになりかねません。また古民家再生を食い物にする「悪徳リフォーム企業」が暗躍する事態も想定しなければなりません。以前このブログでご注意を喚起していますが、リフォームの請負金額が1,500万円以下なら「建設業許可」がいりませんから、誰でもリフォーム会社の看板を掲げることが出来ます。そうした技術や経験のない素人同然のリフォーム企業を見抜かなければ「古民家再生」が飛んでもない結果になることもあり得ます。そしてまた「ゼロ円住宅再生」にはそれなりのリスクが当然あることも、顧客にしっかりと説明しておく必要があります。その上で、資源の有効活用といった面から、空家の再利用を促進していきたいものです。

令和4年9月


 

 

 

不動産業界を取り巻く近未来は

 昨今、多くの評論家が日本の不動産業界が抱える問題点として人口減少と生産緑地の宅地化と人材不足及びIT化の遅れを上げています。
財務省の法人企業統計調査の結果によると、平成29年における不動産業界の市場規模は約43兆円です。これは、1位の自動車業界や2位の建築業界、3位の医療業界についで4番目に大きな市場規模となります。これほど大きな市場規模を持つ不動産業界が「不況」に見舞われたなら、日本経済そのものの根幹を揺るがしかねません。
さらに不動産業界は、「開発・建設」「販売」「賃貸」「管理」の4つの分野にわかれ、他の業界へも波及するすそ野の広い業界だといえます。まず、建設業者が建設した建物を賃貸不動産仲介業者やメーカーに販売します。次に、メーカーが付加価値をつけて販売し、賃貸不動産仲介業者が一般消費者に販売・賃貸を行います。ホテルや大型マンション、商業施設などをメンテナンスする管理業も不動産業界のひとつに分類されています。
ここ数年間、不動産業界の市場規模は拡大傾向にあり、東京都心部を中心に商業施設やタワーマンションの建設が盛んに行われています。
現在も都心部ではマンションの売り上げが好調で、新築のみならず中古マンションまで価格は上昇しています。しかしそれは大都市部での話で、地方の不動産業界はそれほどでもないようです。
不動産業界が抱える課題
不動産業界ですが、実は多くの課題を抱えています。その最大の問題が人口減少です。日本の総人口は2008年にピークを迎え、国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2030年には1億1,900万人に減少すると予想されています。当然のことながら人口が減少すれば「世帯数」も減少して日本全体で必要とされる家屋数が少なくなります。現在ですら16%もの家屋が過剰だといわれています。
しかも都市部に人口が集中する一方で、地方の人口が減少する「人口の2極化」が進んでいます。今後益々地方は減少減が深刻な社会問題化するのではないかと思われます。そして地方でも地方の中心市と周辺町村との格差が広がり、限界町・村が消滅町・村になって行くのではないかといわれています。平成の大合併で行政の拠点を失った町村は殊に厳しいのではないでしょうか。
当然ながら少子高齢化や未婚化が進むと思われることから、全国の世帯数が大幅に減少するのではないでしょうか。それらの影響を受け、都市部を中心に空室や空き家が増加し、新築や中古物件の需要は低くなることが予想されます。
 大都市圏でも現在、税制面の優遇措置のある生産緑地の指定を受け、農業以外の利用が制限されている土地が2022年にその期限を迎えます。つまり、2022年以降は税制の優遇がなくなることから、多くの生産緑地が宅地に転用されることが予想されます。
そのため、土地の供給過剰による地価の下落が起こる確率が高いでしょう。
活況が続いている大都市圏のマンション業界ですが、この2022年問題をきっかけに大きな打撃を受けるのではないか、との懸念が広がっています。
 今後、不動産業界が持続的な発展を確保するために、これらの課題に対し、できる限り早い時期から対策を立て問題解決に取り組む必要があります。それでは具体的にどのような対策を立てる必要があるのでしょうか。
 解決策の1つとして他業種との連携が上げられます。現代は、目まぐるしく社会環境が変化しています。そのため、社会環境の変化に合わせて、消費者のニーズも変化し、同時に多様化しています。不動産業界が単独でサービスを提供するだけでなく、医療や福祉、運輸や通信などの他業種や行政組織との連携・協業を行いながら、トータルサービスを提供することが求められるでしょう。
たとえば、24時間の見守りサービスや医療・介護サービスを取り入れた総合型高齢者向け住宅の開発などが一例です。今後は、より幅広いニーズに対応できる体制を整える必要があるといえるでしょう。
 そして古い家屋を現代に蘇らせるリノベーションも不動産業界で取り組むべき新規開発分野ではないでしょうか。経年劣化により価値が低下した物件の間取りや内装を最初から作り直し、新たな価値を生み出す「リノベーション」に注目が集まっています。
ファミリー向けの物件を単身者用に刷新したり、古くなった事業用の倉庫を最新設備が整ったお洒落な商業施設に改修するなど、アイディア次第でさまざまなリノベーションが可能です。今後は、人口減少や少子高齢化といった日本が抱える課題の内容に沿った、幅広いリノベーションが求められるでしょう。その広がりは個々の家屋から地域社会全体のリノベーションを構想する必要があるかも知れません。そうすれば不動産業界だけの問題ではなく、行政や政府までも巻き込んだ日本のリノベーションを考察しなければならなくなるかもしれません。個々の不動産業者の範疇を超えた政策提言が不動産業界のためではなく、日本の発展のために不動産業界から為される日が来るかもしれません。
 不動産業界は生活に身近な業界であり、景気動向や社会環境の変化に影響を受けやすい業界といえます。不動産に対する幅広いニーズに応えて豊かな住環境を提供するためにも、不動産業界は開発、販売、賃貸、管理といった各業態それぞれの役割を果たすことが期待されます。

令和四年8月

 

 

 

不動産業界が直面する問題

 不動産はその国の人口動態に大きな影響を受けますが、不動産業界が抱えている課題の一つが、日本が直面している少子高齢化という人口減少問題です。ご存知の通り日本の人口は年々、減少傾向にあり、いわゆる「住宅購入世代」とされている30代の人口も減少しています。住宅購入世代の減少により今後、不動産が今までのように売れなくなったり、借りられなくなる恐れがあります。さらに、高齢化を伴うことから「空き家」や「建物の老朽化」なども懸念されます。
 さらにもう一つの問題点は「生産緑地」の優遇期間の終了が上げられます。都市部にある農地は「生産緑地」と「宅地化農地」に分けられますが、生産農地は固定資産税が一般農地並みになる優遇を受けられます。ただし、生産農地には終身営農が条件となっており、宅地転用は指定日から30年経過または土地所有者の死亡が条件となります。2022年には生産緑地の約8割が期限切れになることから、土地や不動産価格の下落が懸念されています。
 昨今の社会情勢の変化によって不動産業界も変化せざるを得ないのは、コロナ禍とオフィス需要の変化手はないでしょうか。コロナ禍の影響により、「テレワーク」や「在宅勤務」など私たちの働き方も様変わりしました。一部のIT企業では解約の動きが出るなど、それまで好調だったオフィス賃貸に変化が見られています。「オフィス賃貸」は不動産業界において、重要な収益基盤です。この事業が崩れることは今後、不動産業界にとって大きなリスクになるのではないどしょうか。
 東京のビジネス街でも2020年半ばから賃料が下落、空室率が急上昇しています。オフィスは通常、6か月前の解約通告が慣例となっているため、今後、さらに空室率が増加する可能性があります。当初、「コロナの影響は限定的」との見方が大半でしたが、2021年2月には空室率が5%を、6月には6%を超えました。直近の動向をみると、警戒すべき状況に入っています。東京がそうなら、地方都市はさらに厳しい状況になっているといわざるをえません。
 以上の三点が不動産業界を取り巻く「負の現状」ですが、根本的な問題は少子高齢化よりもさらに、婚姻率の低下ではないでしょうか。それは新規世帯数が伸びなければ住宅需要そのものが伸びないからです。5年に1度行われる総務省の「住宅・土地統計調査」によりますと、2018年の空き家数は849万戸になっていて。 30年前の1998年から倍以上も増えました。 空き家数を総住宅数で割った空家率は実に13.6%に達して、およそ7戸に1戸が空き家となっています。空家の多くは防災上の問題や環境問題にも及び、深刻な行政課題となって、行政機関も対応する部署を設けなければならなくなるのではないでしょうか。

令和四年7月

 

 

徳山駅前「中心市街地活性化」事業評価は

 今年も例年通り周南市は「中心市街地活性化」事業を展開しています。まったく「10年1日の如し」という言葉があるように、前世紀から徳山駅前「中心市街地活性化事業」は延々と続けられているのには驚きます。


 いったい中心市街地にどれほどの市費を投じて、何年かければ効果が上がるのでしょうか。そしてそれはいかなる指標で測定するのか、といった具体的な事業評価基準もなく、ダラダラと世紀を跨いで続けられてきたことに市当局からはもとより市民からも疑問が呈されないことは驚きというより奇跡ではないでしょうか。これが民間企業の事業なら費用対効果評価はもとより、事業評価委員会を設置して「効果が上がらなかった問題点」を徹底的に分析して、次の「活性化事業」で同じ轍を踏まないように計画を策定するのではないでしょうか。

  日本全国で実施されてきた700件近い中心市街地活性化事業の「成功例」を検証して、徳山駅前「中心市街地活性化事業」がなぜ芽吹かないのかを比較検証しているのでしょうか。全国で実施された中心市街地活性化事業の数少ない成功例としては全国商店街振興組合連合会がネットに「地域商店街活性化事業成果事例集 平成28年度版」(https://www.syoutengai.or.jp/jirei/h28/h28_jireishu.pdf)を掲載していますので、ぜひご参考にされればと思います。

 僭越ながら、中心市街地の活性化を「事業」として行うには、まず「活性化とは何か」を定義しておかなければならないと思います。周南市は駅前活性化としてツタヤ図書館を莫大な経費を投じて建設し、毎年1憶5千万円もの「指定管理者費」を支出していますが、それが中心市街地活性化事業の一環として成功したのか失敗したのか評価の分れるところです。成功とする人は「ツタヤ図書館に年間200万人近い来館者がある」としていますが、失敗だとする人は「1憶5千万円も指定管理費を投じている見返りとして中心市街地の売上総額が増えていない」と、投資対効果が極めて乏しいとする意見があります。

 こうした事からもお分かりのように、何らかの事業を実施する前には、何を以て成功とするのかを明確にしておく必要があります。ツタヤ図書館がにぎわっているというのも、そもそも徳山駅は年間240万人もの利用者があるわけですから、駅ビルのツタヤ図書館に来館者があったとして「それがどうした」という意見もあります。従来の中心市街地での買物客にもまして、ツタヤ図書館が呼び込んだ来館者が中心市街地の新規買物客として総売り上げに貢献しているのかが判りません。

 毎年営々と30年近く中心市街地活性化事業を続けている間にも、徳山駅前周辺は寂れるばかりです。そして今年も巨額の中心市街地活性化事業関連予算が投じられようとしています。

 

令和四年6月

 

 

 

 

不動産業界のIT化は

 不動産業の生産性向上が捗々しくないため、IT化が巷では叫ばれています。不動産業界のIT化「不動産テック」を実現して業界の近代化を図ろうとするのだそうです。つまりIT化により不動産業を「近代化する」必要があり、IT化の流れに乗り遅れれば、不動産業が時代遅れの業界になるのだそうです。
 しかし、果たしてそうでしょうか。まずIT化するには事務作業の標準化が欠かせませんし、事務作業を徹底して省力化しなければなりません。IT化とは「無人化」だという観念すらあるくらいですから、省力化は避けられません。しかし不動産業は理髪業などと同じで、人と対面して行う仕事でもあります。それは一つ一つの不動産が個性的ですべて異なり、工業製品として大量生産することが出来ない極めて特殊な業界だからです。不動産物件が工業製品のように規格化された商品でないため、一つ一つの不動産物件を「定型化」することは困難です。不動産物件を一定のフォーマット化して物件説明から売買契約までの作業をITプログラムに組み込むのは極めて国難ではないでしょうか。
 それは医師や理髪師の業界と酷似しています。理髪店が「全自動化ロボット理髪職人」を店内に設置して、個々人の顧客の頭髪を刈るのは困難なのは明らかです。IT化の今日ですら「全自動理髪機」はありません。それは個々人の頭の形や頭髪の癖がすべて個性的で異なるため、「定型化」したロボットで頭髪を散髪することは出来ないからではないでしょうか。しかも人の頭髪をロボットに刈らせるのは危険だと誰でも考えるところです。不動産業もそれと同様ではないでしょうか。
 一つ一つの不動産はすべて個性的であって、同じ分譲地内であってもここの分譲地はすべて異なります。いや同じマンションであっても階数や方角によって物件は個々で異なり販売価格も異なります。個性的な不動産物件を定型化しIT化することは困難を伴いますし、重説が対面での説明を求めている意義もそこにあるのではないでしょうか。ネットで重説をしても良い、とした改正法に対して異議を唱えなければなりません。
 不動産物件の現地説明を省略できないのも、リモート説明では不動産が所在する周辺環境や不動産そのものの特性まで理解するのは困難だからではないでしょうか。モニターに映る家屋物件ですら撮影角度によって微妙に変化するし、周辺環境を余すことなく説明するのは困難です。たとえば風の吹き具合や木々のそよぎや地域の雰囲気などはリモートでの説明では分かりません。
 不動産業のIT化や対面説明の省略を声高に唱えているのは「全国展開」の大手業者に見られるようです。大手業者はネットやテレビなどの宣伝媒体で広範囲・不特定多数の顧客に不動産情報を宣伝するため、すべての地域に営業所を設置して対面説明するわけにはいかない、という事情もあるのでしょう。だが都道府県を跨いで事業を行う場合は国交省免許の取得が義務付けられていますし、営業所や事業所一ヶ所につき必ず一人以上(従業員五人に一人の割合以上で)の宅建取引士の設置保義務付けています。それも対人説明の必要性から設けられた規定ではないでしょうか。
 IT化は誰の為なのか、ということを考えなければなりません。IT化を図るために対人説明を省く、というのは顧客サービスに逆行するのではないでしょうか。むしろ顧客に対して重説は必ず宅建取引士が対面して行う、という基本線を崩してはならないのではないでしょうか。しかし広範囲に事業を行う大手不動産業者や万色業者などが全国各地に営業所や事業窓口を設置するのは経営経費面で問題がある、というのであれば、当該地域の不動産業者と提携して販売事業を行うのはどうでしょうか。地元業者が不動産業者の専門家として重説を請け負う、という制度を設けてはどうでしょうか。
 不動産事業をIT化するという要請から、対面説明を省いてリモートで行うのは感心できません。契約の締結に関してはさすがに対面で行うように国交省でも指導しているようですが、リモート押印などを採り入れてリモート契約も可とする議論もあるようです。しかし不動産事業の集約化や大規模化を目指す大手不動産業者の言い分だけを聞くのでは業界の信頼を損ないかねないのではないでしょうか。不動産業は理髪業と同様に一人の顧客に対して、一人の不動産取引士が真摯に対応して説明するしかないと思います。不動産事業のIT化とはリモートによる対面説明を省くことではなく、行政に設けられている様々な規制を分かり易く統一することではないでしょうか。たとえば農地法関係の取り扱いで地方自治体により差異があることや、登記簿謄本を見ただけでは、その不動産の所有者が何処の誰か解らないケースを解消することなど、行政や国のさらなる制度改革が必要ではないかと思います。

令和四年5月

 

 

 

 


リフォームには許可業者を!!


古民家ブームでタレントなどが簡単にDIYでリフォームしているのに感化されてリフォームに手を出したのは良いが。なかなか上手くいかないし、手間は取るし、道具類を揃えるのもカネがかかるし、ということで業者に頼む、というケースが少なくないようです。
 そこで古民家を斡旋してくれた不動産屋か世話人に「リフォーム業者」のあっせんを依頼する、という場合が多いようです。この場合、許可業者を世話してくれたら問題はありませんが、大工の真似ごとしか出来ない「業者」に遭遇すると大変です。
 無許可業者が家のリフォームを行うことは「違法」ではないかと思うかも知れませんが、大抵のリフォームは無許可業者でも出来ます。なぜなら建設業法に
「建設工事の完成を請け負うことを営業するには、その工事が公共工事であるか民間工事であるかを問わず、建設業法第3条に基づき建設業の許可を受けなければなりません。
 ただし、「軽微な建設工事」のみを請け負って営業する場合には、必ずしも建設業の許可を受けなくてもよいこととされているからです。

*ここでいう「軽微な建設工事」とは、次の建設工事をいいます。

建築一式工事については、工事1件の請負代金の額が1,500万円未満の工事または延べ面積が150㎡未満の木造住宅工事
「木造」…建築基準法第2条第5号に定める主要構造部が木造であるもの
「住宅」…住宅、共同住宅及び店舗等との併用住宅で、延べ面積が2分の1以上を居住の用に供するもの」
 とあります。つまりリフォームの請負金額が1,500万円未満なら無許可業者でも法に問われることはありません。
 ちなみに建築一式工事以外の建設工事については、工事1件の請負代金の額が「500万円未満の工事」ということになっています。
 つまりリフォームで行う家屋に関する工事は概ね1,500万円以下の場合がほとんどで、常識的には1,500万円は決して「軽微な建設工事」ではない。しかし建設業法では軽微な建設工事で、無許可業者が実施しても「違法」ではないことになります。
 そして工事1件の請負代金の額が「500万円未満の工事」なら無許可業者が施行しても法に問われることはありませんから、よく問題になっている水洗トイレの工事で法外な請求されたという案件でも、請求金額が500万円未満なら許可業者でなくても「違法行為」ということではありません。
 リフォームや土木工事を依頼する場合は、その前に「許可業者」かどうかを確かめることから始めなければなりません。なぜなら許可業者なら然るべき建築士や施工管理士などが必ず事務所にいて、最低でも500万円以上の資本会社でなければならないし、他にも定められた資金力がなければならないことになっている。工事後の保証に関しても、建設業法等に定められた義務を負うため、手抜き工事などの防止になるからです。
 古民家ブームで古民家がリフォームされて新しく利用されるのは環境面からも推進すべきですが、改築などにより耐震力が低下したり、かえって雨漏りがしだしたりすれば問題です。業者選びには然るべき許可証の確認から行うべきではないでしょうか。

令和4年4月

 

 

 

 

所有者不明の土地取引は


所有者不明土地を売買することができるか?

 共有している土地や建物を売却したいけど共有者の一人の所在が分からない場合や、相続が発生しているが相続人の行方が分からないなどの場合に、その不動産を売ったり買ったりすることができるのでしょうか、という問いを受けることがあります。そうした質問に答える形でブログを書いていこうと思います。

1. 登記内容の確認

 まずは、土地や建物の権利関係を把握する必要があります。登記事項証明書には、所有者は誰なのか、抵当権や仮登記などの担保権が設定されているのかが記載されています。そして、権利関係によってどのような手続きが必要なのかを確認しなければなりません。 また、必要があれば、隣地の土地との境界を調べるため、公図や地図を取得したり、境界確定の手続きをすることも考えなければなりません。

2. 所有者・相続人の調査

 登記事項証明書には、現在の登記簿上の所有者の住所と氏名が記載されています。 しかし、所有者が今現在も登記簿上の住所に住んでいるとは限りませんし、すでに所有者が亡くなっていて相続が発生していても、登記事項証明書を見ただけではそのような事実が判明しません。 本来、住所変更手続きや相続登記を行うですが、そのような手続きがなされずに放置されてしまっているケースも数多く存在します。 そのような場合、所有者の住民票などを取得し、現在の住所を調べたり、所有者に相続が発生している場合には、戸籍を取得し、相続人を調査する必要があります。ただし、勝手に他人の戸籍等を取得することはできませんので、場合によっては専門家に手続きを依頼することも検討しなければなりません。

3. 不在者財産管理人の選任

 所有者不明不動産を売却するための手続きとして、不在者財産管理人の選任を申立てる方法があります。 例えば、共有している土地や建物を売りたいときに、その共有者のうちの一人の行方が分からず所在が不明な場合、管轄の家庭裁判所に申立てを行い、不在者の財産を管理する「不在者財産管理人」を選任してもらいます。選任された不在者財産管理人は、家庭裁判所の許可を得て、所在不明者に代わって、他の共有者と協力して共有している不動産を売却することができます。 また、共有者の一人につき相続が発生し、その所在が不明の場合にも同じ手続きを経る必要があります。相続人が複数人いる場合には、遺産分割協議を行わなければなりませんが、不在者財産管理人が所在不明者に代わって遺産分割協議に参加します。

4. 相続財産管理人の選任

 不在者財産管理人選任のほか、相続財産管理人の選任の申立てが必要な場合があります。 例えば、不動産の所有者に相続が発生しているもしくは共有者の一人につき相続が発生しているが、法定相続人となるべき者がいない場合や遺言書がない場合には、管轄の家庭裁判所に「相続財産管理人」を選任してもらいます。 相続人はいるが、相続人全員が相続放棄をした場合も同様に相続財産管理人選任の申立てが必要となります。相続財産管理人は、相続財産の管理を行い、相続人の調査や債権者に対して債務の弁済等を行います。そして、相続人ではないが、亡くなった方と特別な関係にあった特別縁故者がいる場合には、特別縁故者に相続財産である不動産を分与することができます。 また、共有者の一人に相続人も特別縁故者もいない場合には、亡くなった共有者の持分は、他の共有者に移ることになりますので、共有していた不動産を売却することができるようになります。 所有者不明の不動産に対する日本政府の対策 所有者不明土地の問題が顕在化してから、

日本政府も法律の改正に着手しました。

 政府は国土調査法を改正し、土地の所有者や面積などが記載された地籍を整備し、客観的な資料などがあれば所有者の立ち会いなしで地籍を確定できる制度の条件を緩和するとしました。また、不動産の所有者の氏名や住所が正確に登記されていないなど、登記が変則的になっているものについて、法務局の登記官が職権で所有者を捜せるようにするための制度を整えることを決めました。 その中で、いままでバラバラだった登記と戸籍の情報を連携させ、不動産の所有者を調べることができるシステムを構築し、自治体が把握している不動産の所有者の死亡情報と国が管理する登記情報とを結び付け、誰が現在の所有者なのか迅速に調べられるようになります。そして、現在では手続きをするかどうか任意となっている相続登記の義務化が検討されています。これは、相続登記を行うことによって、二次相続・三次相続が起きた場合に相続人が分からなくなることを防ぐためです。 さらには、管理が難しくなった不動産を放棄することができる制度の検討にも入るなど、今後、所有者不明土地を有効に利用することができる制度の整備が進んでいくものと思われます。
日本全国の所有者不明の土地面積は九州よりも広いといわれています。このまま放置しておくのは日本経済にとっても大きな損失です。一日も早く法律が整備されて、国土が国民のために有効活用されることを願っています。

令和4年3月1日

 

 

 

 

 

 

新たな国土形成計画

「不動産ニュース 2022/1/27日付」に以下のような記事が掲載されました。

<国土交通省は27日、新たな国土形成計画を検討するため、国土審議会計画部会(部会長:増田寬也東京大学公共政策大学院客員教授)の4回目の会合を開催した。

 今回は、事務局が同計画でポイントとなる「地域生活圏」(人口規模10万人程度を目安とする、一市町村を越えた住民の生活圏域)において、(1)日々の日常生活に必要な機能、(2)生活に必要な所得を得るために必要な機能、(3)日常に潤いを与える文化的な生活に必要な機能、(4)(1)~(3)を支える要素に分類し、今後の対応の方向性等について示した。

 例えば、(1)においては、必要なものを購入できる機能の維持・確保等への対応として、中心市街地や商業集積地等で、地域住民のニーズを踏まえ、空き店舗等も活用しながら、新たな需要の創出につながる施設の整備について記載。(2)においては、林業・木材産業の成長産業化への対応において、住宅分野に加えて、耐火部材やCLT等の開発・普及を通じた中高層建築物や非住宅分野での木材利用など、新たな木材需要の獲得が必要としている。

 (3)では、子育て支援施設や高齢者対応施設等を複合した施設、居住施設と公益施設等の一体的な施設を整備するなど、子育て・医療・福祉・商業等のさまざまな都市機能を集積し、女性や働く世代も含むすべての世代が効率的にサービスを受けることができ、人々が交流するコミュニティの形成につながるコンパクトなまちづくりを進めるべきとした。遊休施設の交流拠点、子育て支援や介護の場、宿泊が可能なゲストハウスなどへの活用、空き家・空き地等のマッチングサイトの充実、テレワーク拠点やコワーキングスペースの設置、サテライトオフィスの誘致なども示した。

 (4)については、災害リスクの特に高いエリアにおける土地利用への対応では、災害リスクを低減させるためハード対策を強化する一方で、災害リスクが特に高い地域における土地利用規制などの土地利用対策等のソフト対策の推進、災害ハザードエリアにおけるまちづくりと連携した開発の抑制や住まい方の工夫、移転の促進などを挙げた。

 委員からは「地域生活圏でどういった未来像を描くのか、言及した方がいい。地域生活圏の理想像を冒頭示しては」「項目ごとの地方生活圏の定義・コンセプトを明確にすべき。またデジタルの位置付けを分かりやすく示してほしい」「人口減少局面の中、DX等を踏まえた新しいサービスの在り方が具体的に示す必要があるのでは」等の意見が挙がった>(以上「不動産ニュース」より引用)


 文中「DX」とあるのはデラックスという意味ではありません。DX(デジタルトランスフォーメーション)は、「進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革する」というもので、2018年9月に経済産業省が発表した『DXレポート』の中で、「2025年までにシステム刷新を集中的に推進する必要がある」と強調されたことで、多くの企業にとっての喫緊の課題として捉えられるようになりました。
 新たな国土形成計画を検討するため、国は国土審議会計画部会(部会長:増田寬也東京大学公共政策大学院客員教授)を開催して、国土形成の未来像を策定しようとしています。そのうち地方に暮らす私たちに関係してくるのは(4)項ではないでしょうか。
 つまり「災害リスクの特に高いエリアにおける土地利用への対応では、災害リスクを低減させるためハード対策を強化する一方で、災害リスクが特に高い地域における土地利用規制などの土地利用対策等のソフト対策の推進、災害ハザードエリアにおけるまちづくりと連携した開発の抑制や住まい方の工夫、移転の促進などを挙げた」という個所です。
 ハザードマップで危険個所や特別警戒地域を色分けして、それで行政の「防災」に関する役目は終わったとされては敵わない、と思っているところです。危険個所が分かったのなら、その危険を解消なり軽減するのが本来の「防災」ではないでしょうか。

 土地を有効利用するのもさることながら、地方では災害を機に地域が崩壊したり衰退することはよくあることです。限界集落が消滅集落になる切っ掛けが悲惨な大規模災害であってはならないと思います。(1)(2)(3)項目で掲げられている内容はすべて(4)の対策があってこそではないでしょうか。都市が存続するには健全な後背地たる地方があってこそではないでしょうか。兵站たる道路や鉄道網もさることながら、山野や河川が健全に機能してこそ農作物が取れ、海産物が獲れるのです。そうした国土の有機的成り立ちを忘れて健全な国土の開発は出来ないのではないでしょうか。

令和4年2月

 

 

出資禁止法や金商法との関係は?

「みんなが大家さん」というテレビコマーシャルがあります。大家さんになれば2か月に一度、年利7%相当の配当があって豊ら暮らしをしていける、という夢のような「投資勧誘」話です。
不動産業をしていると「みんなが大家さん」は不動産業者がやっているのか、と問われることが良くあります。確かに「みんなが大家さん」を経営している「都市綜研インベストファンド株式会社」は不動産業者登録しているようです。そうした意味では不動産業者ですが、「都市綜研インベストファンド株式会社」のホームページを見ると必ずしもアパートやマンション経営に特化しているとは言い難いようです。
「みんなが大家さん」というスローガンから受ける印象は賃貸住宅を「都市綜研インベストファンド株式会社」が代理して行い、その会社にみんなが投資しているから「大家さん」ということなのか、とテレビ・コマーシャルを見た人たちは思うかも知れませんが、事業は賃貸不動産のみならずホテル経営やバイオテクノロジー投資といった広範な投資活動を謳っています。
ますます怪しさ満載ですがネットの「都市綜研インベストファンド株式会社」情報では「安定性、収益正ともにバランスの良い資産運用と評判です」と出てきます。それも「やらせ記事」なのかと疑いたくなりますが、法治国家・日本で悪辣な詐欺が堂々とテレビCMを流せるとも思えません。
しかし「みんなが大家さん」のCMでは1口100万円からで元金保証、年利7%配当を謳っているのはどう考えても「本当かな」と首を捻らざるをえません。「都市綜研インベストファンド株式会社」のホームページで会社決算を見ようとしましたが、なぜか幾らクリックしてもPDFファイルが開けません。資本金1,000万円の会社で「みんなが大家さん」から集めた「投資資金」が
幾らあるのか、そして保有する資産が幾らあるのか会社の健全性を知る手掛かりが得られません。
古い話ですが、2017年9月12日、名古屋の有力寺院、八事山興正寺をめぐる不透明なカネの動きに名古屋地検特捜部のメスが入ったことがあります。それは12年3月、興正寺境内地の約6万6000平方メートルを隣接する中京大学に138億円で売却したが、受け取った代金の大半が短期間のうちに東京都内のコンサルティング会社などに業務委託料の名目で流出していたというものでした。その事件に関係していた人物の一人が「みんなが大家さん」の経営者ではないかともいわれています。
 赤いバラには刺がある、といいます。この低金利の時代に元本保証で年利7%などという、そんなうまい話があるのでしょうか。

令和四年1月

 

 

 

 

所有者不明の土地とは。

 所有者不明の土地は全国で410万haあるといわれています。九州の面積が367.5万haですから、九州よりも広い土地が所有者不明のまま放置されていることになれります。このまま放置すれば2040年には720万haになると推定されているそうです。
 なぜそうなったのでしょうか。それは日本は歴史的に「土地」を最も重要な資産として大事にしてきたからです。歴史的に他民族から侵略されることのなかった日本では、土地こそが最も安全な資産でした。江戸時代の終わりまで長く続いた封建制度では、家臣への領地安堵を見返りとして武士団を支配していました。明治になって封建制度が消滅しても、実質的に「地租改正」として土地の所有を証する「地租」が俸給の基礎とされました。だから1899年に明治32年に「不動産登記法」を制定するにあたって土地所有者に登記を義務付けるまでもなく、土地所有者は積極的に土地登記するものと考えていました。

 しかし現実には登記簿上の所有権が移転しても、書き換えられていない事態が起きるようになってきました。さらに戦後民法改正により長男が不動産を相続する「家督相続制度」が廃止になって以来、相続財産の分割を巡って遺産分割協議が難航するようになり「未分割相続」不動産が放置されるようになりました。それはすべての法定相続人が遺産分割協議書に署名捺印しない限り、登記簿の所有権者は変更できない規定に起因しています。従って不動産所有者が死亡したまま登記簿の書き換えが放置され、そのままの状態で数十年から百年近くも経っている不動産が「所有者不明の土地」になっているのです。
 今般不動産登記法の改正により「不動産の登記名義人が亡くなったときは、当該相続により不動産を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記等(相続又は遺贈による所有権移転登記)をしなければならない」とされ、2024年から実施されることになりました。これにより今後は相続が発生した場合に不動産が未登記のまま放置されることはなくなると思われますが、以前から放置されたままの不動産に関してこの改正法を適用するのは困難です。

 法務局が放置されている土地所有権者の特定するのは地方自治体などの事業実施の際に障害となる場合から、今般は民間企業で地方自治体などに届け出た事業遂行上支障の出るものにまで範囲が拡大されますが、それでもまだ不十分ではないでしょうか。
 地方自治体や民間企業が工事などを行う場合で、「収用法」や「買収」を実施するまでもない、地上権のみを利用するケースもありますが、その場合は「登記官が所有者不明土地の登記名義人や法定相続人を特定し、情報提供する制度」の適用外となるのか疑問の残るところです。
 法改正により戸籍の一元管理が法務省でなされるようになり法定相続人を探す手間が大幅に省けるようになりましたが、それでも遺産相続されないで未分割のまま放置されている不動産は全国に数万件もあるとされています。一日も早い登記簿上の所有権者と現実の所有権者が一致するようになることを望むしかありません。まだまだ相続に関する手続きなどを国民が余り知らないのにも問題があります。たとえば親族が死亡後の「相続放棄」の期間すら知らない人が大半ではないでしょうか。不動産登記法が改正されて不動産登記が義務付けられたことも知らない国民が多いのではないでしょうか。

令和三年12月1日

 

 

 



 

実家の仕舞い方

『週刊東洋経済』10月11日(月)発売号で「実家のしまい方」を特集していました。「実家のしまい方」とは聞きなれない言葉ですが、田舎で暮らしていた父母が亡くなり、無人となった「実家」をどう始末着けるのかという特集です。
5年に1度行われる総務省の「住宅・土地統計調査」では、2018年の空家は849万戸に達して、30年前の1998年から倍以上も増えました。空家数を総住宅数で割った空家率は13.6%に達して、およそ7戸に1戸が空家になっている計算になります。
そして、この趨勢で行くとするなら2038年には3戸に1戸が空家となり、残された子供たちにとって「実家のしまい方」が社会問題化するのではないかと懸念されています。
 ただし「空家=居住者のない住宅」のすべてが問題なわけではありません。問題なのは空家のうち賃貸用や売却用、別荘などの二次的住宅を除く「その他の住宅」です。つまり利用されない「その他の住宅」が全体の41.1%を占めることになり、「入院などのため長期にわたって不在の住宅」「建て替えのために取り壊す住宅」「区分の判断などが困難な住宅」などがこれにあたります。空家の種類別では共同住宅が56%で、一戸建てが37%になっています。さらに所有者の年代別で見ますと、60代以上が78%を占めています。つまり都市ではマンションやアパート、団地で、郊外では戸建て住宅などで、高齢者が空き家の所有者となっていることになります。
 そうした「実家の空家化」への危機感から、地方の市町村でも空家条例を次々と制定しています。また全国各地で空家バンクも設立されて、空家を売りたい人・貸したい人と、空家を買いたい人・貸したい人を仲介する試みも広がりつつあります。
しかし残念ながら、これまで空家の利用率がどんどん改善されてきたとは言い難い状況にあります。国による法制度の整備などが進んだために空家への関心は高まったようですが、まだまだ空家に対する取り組みが改善されてないのが現状のようです。
 当然ながら家は維持するにも、処分するにもコストがかかります。水道や電気は引いているだけで基本料がかかりますし、家屋に掛ける火災保険料、さらには庭木の剪定費や毎年かかる固定資産税も掛かってきます。分譲マンションでは月々の修繕積立金なども必要です。そしていざ片付けようとしても、子が自分の持ち家から実家に通えば、交通費もばかになりません。親が亡くなった後の遺品整理で、家屋内に物が想像以上に溢れている現実に直面し、整理業者などのプロに依頼するケースも多く、その場合の費用は数万円から数十万円も掛かることがあります。
 実家を処分するなら、売るか、貸すか、の二者択一になります。売らずに活用するために必要なリフォームをして、自分で住むか店舗などに変える選択肢もあります。地方では古民家カフェなどに改装したり、コロナ後を見据えて民泊などを開業することも考えられるでしょう。現実的に最も多い「そのまま維持」を別にすれば、やはり望ましいのは「売却」ということになるでしょう。ただし親が住んでいたような古い実家を売るのは簡単ではありません。マンションの住み替えなどを別にすれば、多くの人は買う経験はあっても、売る経験は少ないからです。
  一戸建ての場合なら古い家を壊して更地にして売るか、そのままの状態で売るかは判断の難しいところです。売る側は「買い手が土地のみか戸建て付きか、選べるように販売したほうが売却できる確率は高い」と思われますが、解体費用も100万円から数百万円もかかり、地方では売却予定代金がそれに満たない場合もあります。「実家のしまい方」で地方のハードルはかなり高いといわざるを得ません。近年では買い取り再販なども増えたものの、まだまだ郊外では中古物件の取引は少ないようです。売買価格が安い分、仲介手数料も安くなり、不動産業者にとってウマミは少ないのが実情です。ただ複数の業者に相見積もりで査定を出してもらったり、自分でもネットなどで付近の不動産情報などを調べたりして相場感を知っておくに越したことはありません。
 国も新築・持ち家に力を入れてきましたが、今後は住まいを畳むことまで視野に入れざるを得なくなってきます。日本ではすでに住宅総数(約6200万世帯)が総世帯数(約5400万世帯)を上回っています(2018年、国土交通省調べ)。単身世帯の増加によって、人口減でも世帯数は40万~50万のペースで増えていますが、同時に毎年80万~90万戸の新築住宅が着工されています。新築家屋に関しては住宅ローン減税をはじめ、政策面での支援も相変わらず手厚いが、今後は中古住宅の流通や利活用を増やすと同時に、空屋の除却などを進める政策を一段と進めていく必要があります。

令和3年11月1日

 

 

 

 










相続登記の義務化

 一般財団法人「国土計画協会」の所有者不明土地問題研究会の試算結果によると、日本全国の所有者不明土地は北海道本島の土地面積(約780万ヘクタール)に匹敵するという。登記簿上の土地所有者が不明というミステリーが全国で発生している原因は、相続などにより取得した土地の所有者移転登記が義務付けられてなかったことによります。
 土地所有者が不明だと公共事業や再開発を進めようとしても、所有者を探す時間や費用はもちろん、手続きにコストもかかります。緊急を要する災害復興に向けた用地取得も難しくなります。あるいは土地を売却しようと思っても、所有権が移転されて本人が登記簿上の所有者でなければ土地売却はできません。そのため改めて土地の所有権の移転登記をしようとすると、相続人全員に連絡して了解をもらわなければなりません。
 こうした不都合を解消するため、2021年2月、法整備を検討してきた法制審議会が、相続や住所を変更した際の登記を義務づける法改正を法務相に答申し、4月21日の国会で成立しました。改正された法律では親が亡くなって不動産を遺産相続した場合は、相続の開始を知って、かつ、所有権を取得したと知った日から3年以内に移転の登記を申請しなければなりません。ただ複数の相続人がいて遺産分割協議がなかなか整わなくて遺産分割協議が2年後にまとまった場合、その日から3年以内に登記を申請しないといけません。正当な理由がないのにも関わらず、この二つの申請を怠った時は、10万円以下の過料を求められます。
 また新たに「相続人申告登記」(仮称)も創設されます。申請義務のある人が、相続が始まったことや自分が相続人であることを申し出れば、義務を履行したものとして認められるものです。遺産分割協議が終わっていないけど、先に申請しておきたい、というケースを想定したものです。
正当な理由がなくて申請していない場合は5万円以下の過料を払わなければなりません。施行は周知期間を設け、3年後となる見通しです。

登記名義人の住所変更などは2年以内
 所有権を持つ名義人の氏名や名称、住所に変更が生じた場合は、変更があった日から2年以内に申請しなければなりません。土地の所有者が転居を繰り返して所在が分からなくなることを防ぐのが狙いの一つです。この義務は5年以内に施行されます。
 今回の法改正では、もう一つ大きな目玉があります。相続した土地を、法務大臣(窓口は、各地の法務局)に申請し、承認を得た上で国庫に帰属させる制度です。目的としては、土地を所有し続ける負担が大きく、手放したいと思ったときに、国有地にしてもらうものです。ただ、全ての申請を認めるわけではありません。以下のような制限に引っかかるものは、該当しません。
1,建物のある土地
2,担保権または使用、収益を目的とする権利が設定されている土地
3,通路やそのほかの人による使用が予定されている土地として政令で定める土地が含まれている
4,土壌汚染対策法第2条第1項に規定する、鉛やヒ素といった特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限る)により汚染されている土地
5,境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属または範囲について争いがある土地
他にも、まだいくつかの要件があります。
国庫に帰属させるには、承認を得て所有権を放棄して全て終わりになるわけではなく、10年分の管理費を支払わなくてはいけません。現段階では、法務省が公表したスクリーニング調査結果によると、要件を充足する土地は、土地を所有している世帯単位でみると約1%にとどまるようです。今後、実際に運用していく中で、対象が増えていくかもしれません。

令和3年10月

 

 

不動産取引のリモート化は是か。

 不動産売買の重要事項説明が、2021年4月から本格的にオンラインで実施できるようになりました。ITを活用して行う「IT重説」が普通になれば、不動産業者も今後は顧客から非対面取引を要求された時に「オンライン化には対応できません」と言えなくなるでしょう。
 今年5月にデジタル改革関連法が成立したことで、書面の電子化に向けた申請書類の準備も始まります。不動産取引でオンライン取引が急速に普及することになるでしょう。
 重説のオンライン化については既に2017年10月から一部解禁とされていました。それはIT系企業が中心となって設立された経済団体「新経済連盟」(代表理事・三木谷浩史・楽天グループ会長兼社長)が、テレビ会議システムなどのITを活用して重説を行う「IT重説」を試験的に実施し、国土交通省では、賃貸借契約に限定してIT重説に関する約2年間の社会実験を経て解禁としていました。

 次に売買取引での「IT重説」の導入は、法人間では2015年8月から、個人間では2019年10月から社会実験が始まっていて、宅地建物取引業者(以下、宅建業者)は、国交省に届け出て登録すればIT重説を行うことは可能でした。しかしその試験期間の登録事業者数は約850社てしかなく、実施件数は5年間で約2300件にとどまっていました。
 2021年4月から国交省が定めた「IT重説実施マニュアル」に基づいて、どの宅建業者でもIT重説を自由に行えるようになりました。今後「脱ハンコ」を実現するデジタル改革関連法が施行されると、書面交付も電子化できるようになりますので、宅建業者もオンライン取引の環境整備に本腰を入れて取り組むことになるでしょう。
 ITを活用して重要事項説明を行う「IT重説」では、さまざまな書類を画面上に映し出しながら説明を行うので、画面の小さいスマートフォンではなく、パソコンやタブレットの利用が推奨されています。今回のコロナ禍で、日本でもパソコンで利用できる汎用タイプのテレビ会議システムが普及して、IT重説を利用しやい環境が整って来たようです。
 社会実験が始まった当初は、IT重説向けの専用システムが多く登場しましたが、リモート・ワークで会議システムとしてZoomやGoogle Meetが頻繁に使われるようになり、社会に広く普及したことから不動産業界もリモート・ワーク化を推進せざるを得なくなっています。どのシステムが最終的に用いられるようになるのかは分かりませんが、国交省などで利用されているMicrosoft Teamsや、電話営業システムとして実績のあるベルフェイスなども採用されているようです。

 国交省の定めたIT重説の実施マニュアルでは、宅建業者には相手方のIT環境の事前確認が求められていますので、IT重説を選択した時点で、テレビ会議システムなどをつないで事前に問題がないかどうかを確認しておく必要があります。
 具体的なIT重説を利用した取引ではテレビ会議システムを立ち上げたあと、最初に画面越しに宅建士の本人確認を行います。顔写真付きの宅建士証をカメラにかざし、重説の説明者と顔が一致していること、事前に送付された重説書類に記名押印している宅建士と名前が一致していることを確認します。
 次に、重説の相手方である買主が契約当事者本人であることを確認します。運転免許証、マイナンバーカード、社員証など、顔写真付きの公的身分証明書や第三者が発行した身分証をカメラにかざして、宅建士に確認してもらうことになります。
 もちろん後日のトラブル防止のために「IT重説の録画・録音は有効と考えられる」と、国交省の実施マニュアルにも明記されています。ただし、録画・録音の利用目的を明確にし、IT重説の参加者の了解を得たうえで、記録改ざんを防止するために参加者全員がそれぞれに録画・録音することが望ましいでしょう。また個人情報保護の観点から、売主や貸主などの個人情報が含まれる部分は録画・録音を中断するなどの対応も必要となります。
 本人確認と録画・録音対応を行えば、画面越しに相手の顔を見ながら、重説書類などを画面共有して説明を受けます。最近では重説で伝えなければならない情報量が増えて、所要時間が2時間程度と長丁場になるので、重説実施の日程が調整しやすく、移動の負担が軽減できるなど、IT重説のほうが使い勝手が良いため、ニーズは高まっていくでしょう。

 ただIT重説は解禁されましたが、現時点では紙の書面交付は行わなければなりません。デジタル改革関連法案が5月に成立したので、1年以内をめどに宅建業法でも押印が廃止され、電子書面の交付だけで済むようになることが期待されますが、それまでは記名押印した書面の交付が義務付けられています。
 宅建業者は、IT重説を行う日時を決めたら、その5日ぐらい前には重説書面を作成して、宅建士が記名押印し、そのほかの関係書類も同封して、買主に郵送します。買主はIT重説が終了したあとに、重説の書面に記名押印して宅建業者に返送してIT重説が終了したことになります。
 この書面交付作業が大変なので、IT重説に対応してこなかった宅建業者も多かったと言われています。しかし今後法改正などにより電子書面の交付が可能になれば、IT重説を行う当日に電子書面をネットで送付すれば済むようになるので、大幅に効率化が図られるでしょう。
 さらに弁護士ドットコムによると、電子署名サービス「クラウドサイン」は、宅建業者が利用契約(月額固定費1万円、1契約当たり送信費用200円)を結べば、宅建業者から電子書面を送付される買主や売主もサービスを利用できます。不動産の非対面取引が普及すれば、そうした電子取引を保証する企業も多く登場してくると思われます。ただハッキングや成りすましの横行する社会で、不動産取引が速やかに電子取引に移行するとも思えないのは「古い人間」だからなのでしょうか。

令和3年9月

 

 



















レオパレス21の「その」後とこれから。

 全国的に有名なアパートやマンションの建設企業レオパレス21が建設したアパートの防火壁手抜き工事が発覚したのは、一昨年3月26日テレビ東京の「ガイアの夜明け」のスクープでした。それによりレオパレス21は手抜き工事とされた全国22万戸の防火壁改修工事を実施する責務を負い、一気に経営が悪化してしまいました。
 昨年度は802億円もの赤字を出し、今年も444億円の赤字を計上しましたが、それでも改修工事すべき22万戸のうち、工事が終わったのは4万2千戸に過ぎません。現在の改修工事は月500戸のペースですので、すべての改修工事が終わるのに単純計算で今後30年もかかることになります。
 一昨年の手抜き工事発覚直後にレオパレス21は資金難に陥りましたが、助け舟としてフォーレスト・インベストメントが登場して資金援助を行い、レオパレス21は当面の危機を回避しました。
 フォーレスト・インベストメントは米国企業でしたが、現在はソフトバンク傘下に入っています。フォーレススト・インベストメントがレオパレス21に注入した資金は約300億円といわれています。援助といっても無利子ではなく、14.5%と高率の有利子「貸付」で、利子だけでもレオパレスは年間43億円も負担しなければなりません。
 現在レオパレス21の財務状況は200億円の債務超過に陥っているといわれています。破綻する可能性が高いと思われますが、フォーレスト・インベストメントは300億円の貸し付けの担保としてレオパレス21の新株予約権(一株142円で)を取得していいる。そのためレオパレス21がデフォルトしたなら、投資資金300億円を新株として取得し、レオパレス21の筆頭株主として経営権を取得すると思われます。
 フォーレスト・インベストメントは従来から格安賃貸住宅を売りにして日本の不動産業界に参入していました。それは雇用促進住宅などの払い下げなどの物件を競争入札で取得し、そうした物件を月額家賃2万円といった格安賃貸住宅として貸し出すなどして、既に不動産業業界に地歩を築いています。格安なのは家賃だけでなく、仲介手数料0、敷金0、保証金0といった従前の常識を覆すものです。
 レオパレス21の経営権を手に入れたなら、フォーレスト・インベストメントはレオパレス21が家賃保証しているサブリース大家2万8千人に対して、レオパレス21が保証していた家賃契約の解除を通知すると思われます。そして新たに格安賃貸契約を提案し、それが嫌ならサブリース契約の解除を承諾するように迫ると思われます。
 一方で全国のレオパレス21とサブリース契約している大家100人が家賃保証引き下げに反対して提訴しようとしているようですが、レオパレス21は借地借家法第32条の「借賃増減請求権」を盾に、サブリース契約をしている全国の大家さんに補償家賃の引き下げを次々と提案して来ると思われます。
 レオパレス21の手抜き工事の発覚により、これから全国22万戸の賃貸住宅をフォレスト・インベストメントが格安賃貸物件として事業展開することになる可能性があります。そうすると賃貸住宅市場が格安賃貸物件にかき回され、不動産業界に劇変をもたらすことになるかも知れません。

令和3年8月






















住み良さランキング2021版

「住み良さランキング」の2021年版が例年通り東洋経済誌に掲載されました。山口県からは下松市が初の10位にランクされ、中国地方でも倉吉市に次いで二位となりました。喜ばしい限りですが、一体何を以て「住み良さ」としているのか疑問が湧き上がります。そこで今年は「住み良さ」の実態に迫ってみたいと思います。
 住み良さには年齢や性別や家族構成により様々な要素が挙げられるでしょうが、東洋経済誌が「住み良さ」の指標として何を重視しているのか探ってみました。
 東洋経済誌では「住み良さ」には「安心度」「利便度」「快適度」「富裕度」の4つの視点から、20のデータを用いて算出しているとのことです。
 そこで具体的なランクづけの各指標ポイントに関する計算方法を紹介します。普通のランク付けのように平均値を50 として、偏差値を算出し、すべての指標の偏差値の平均を「総合評価」としているようです。
 ただそうすると偏差値は特異数値による過度の影響を避けるため、各指標の最高を70、最低を30に調整しているようです。ただ財政力指数は特別財政措置があるため、人口当たり法人市民税は特別区を除外して算出しているとのことです。

A.安心度
(1)人口当たり病院・一般診療所病床数(2019年10月):厚生労働省「医療施設調査」
(2)老年人口当たり介護老人福祉・保健施設定員数(2019年10月):厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」
(3)20~39歳女性人口当たり0~4歳児数(2020年1月):総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」
(4)子ども医療費助成(対象年齢・所得制限の有無)(2021年4月):東洋経済調べ
(5)人口当たり刑法犯認知件数(※)(2019年):各都道府県警察調べ
(6)人口当たり交通事故件数(※)(2019年):交通事故総合分析センター調べ

B.利便度    
(7)人口当たり小売販売額(2015年):総務省・経済産業省「経済センサス活動調査」
(8)人口当たり大規模小売店店舗面積(2020年):東洋経済「全国大型小売店総覧」
(9)可住地面積当たり飲食料品小売事業所数(2016年6月):総務省・経済産業省「経済センサス活動調査」
(10)人口当たり飲食店数(2016年6月)総務省・経済産業省「経済センサス活動調査」

C.快適度    
(11)転出入人口比率(2019年):総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」
(12)水道料金(※)(2021年4月):東洋経済調べ
(13)汚水処理人口普及率(2020年3月):国土交通省、農林水産省、環境省調べ
(14)気候(月平均最高・最低気温、日照時間、最深積雪)(1981~2010年):気象庁「メッシュ平年値データ」
(15)都市計画区域人口当たり都市公園面積(2019年3月):国土交通省「都市公園整備水準調書」

D.富裕度    
(16)財政力指数(2019年度):総務省「市町村別決算状況調」
(17)人口当たり法人市民税(2019年度):総務省「市町村別決算状況調」
(18)納税義務者1人当たり所得(2019年):総務省「市町村税課税状況等の調」
(19)1住宅当たり延べ床面積(2018年10月):総務省「住宅・土地統計調査」
(20)住宅地平均地価(2020年7月):国土交通省「都道府県地価調査」

(注記)
・(1)の病床数は、各市区で算出した値と「二次医療圏」で算出した値を比較し、高い値で偏差値を算出。
・(4)の子ども医療費は、対象年齢と所得制限の有無を東洋経済が指数化して偏差値を算出。
・(7)の小売販売額、(8)の大型店面積は、各市区で算出した値と「東洋経済生活圏」で算出した値を比較し、高い値で偏差値を算出。
・(14)の気候は、月平均最高気温、月平均最低気温、日照時間、最深積雪のそれぞれの偏差値の平均値を採用。
 以上の算出ポイントを総合評価して「住み良さランキング」を作成しているようです。そうして算出した結果2年連続「総合評価1位」は石川県野々市市になっています。
 野々市市は石川県のほぼ中央に位置していて、金沢市と白山市に囲まれた新興都市です。金沢駅まで電車で7分の距離にあり、複数の大学が立地しています。人口は5.3万人で若いファミリー世代を中心に増加が続いている若い街です。
 野々市市における4つの視点の各ランキングは、利便度以外の順位は3桁台であるのに対し、利便度は10位と突出する前回同様の傾向となったという。利便度を構成する指標である「人口当たり小売販売額(以下「小売販売額」)」と「人口当たり大規模小売店店舗面積(以下「大型店面積」)」が、ともに偏差値の上限の70を獲得して1位であることから、商業施設がそろう良好な買い物環境があるとうかがえる。また、安心度の順位は181位であるものの、安心度を構成する指標「子どもの医療費助成」(3位)については、外来・入院ともに「18歳の年度末まで所得制限なし」で利用できる。「20~39歳女性人口当たり0~4歳児数(以下「0~4歳児数」)」も高い。
 他の指標では、快適度を構成する「水道料金」、富裕度を構成する「財政力指数」や「1住宅延べ床面積」、「住宅地地価」なども上位にあるという。
 つまり今後の都市政策に関して、住民の「暮らし良さ」を満足させる政策ポイントが何処にあるのか、東洋経済誌が示した「住み良さランキング」が大いに参考になるのではないでしょうか。

令和三年7月

 














キャンプで「マイ山」ブーム

 国土面積に占める森林面積は約66%(森林率約7割)で、先進国の中では有数の森林大国です。しかし戦後の一時期材木業が繁盛したものの、ここ数十年は外国から輸入される材木に押されて、日本の林業は斜陽産業になって久しい。山を売りたい人はいても、山を買いたい人などいない、というのが常識でしたが、ここに来て、俄かに情勢が変化しているようです。
 キャンプする芸人がアップするyoutuberの魅力と、コロナ禍で「密」を避ける人たちの余暇の過ごし方が変わったためか、昨今はキャンプブームで何処のキャンプ地も土日ともなれば大変な賑わいを見せている。そうしたキャンプする人たちの中にはキャンプ場でのキャンプに飽き足らず、自分の山でキャンプをしたいと思う人も増えたて来たようです。
 やはり人気芸人 you tuberのヒロシ氏やじゅんいちダビッドソン氏などが山を購入してキャンプする映像をネットにアップしていることから、一般人キャンパーの間でも山購入するのがちょっとしたブームになっているようです。そこで今回は「山の購入」に際しての注意点を幾つか上げてみます。
 山も「不動産」ですから基本的に宅地購入と何も変わりません。ただ山の特殊性として「実測売買」ではなく「公簿面積売買」が普通のようです。なぜなら山は広大ですから実測したら測量費が購入額の何倍もかかってしまうことにもなりかねません。
 日本では昭和の終わりごろに全国的に「国土調査」が実施されました。一筆調査ともいわれますが、隣接地主立会いの下で測量士による実測がなされています。ただ隣地の地主の立ち合いが困難な場合や、境界が不明確で国土調査の時点で境界が決まらないなど「筆界未定」といわれる境界線が決められなかった山も多々あります。そのため改めて実測するのではなく、公簿面積と公図を頼りに売買するケースが殆どです。
 昔の山の面積は目盛りの着いた縄を使って測量していました。地主たちは山の面積により税金が課されるため、面積を狭く申請する傾向がありました。そのため実測すれば必ずといって良いほど面積が増えます。それを「縄伸び」といいます。ですから「公簿面積」で取引しても損になることはありません。
 次に山林購入に際して注意すべき点として、山であっても基礎工事を伴う家屋を新築するには建築申請が必要です。また斜面を平坦地に造成する場合には「開発申請」が必要な場合もあることに留意しなければなりません。そして電気がなく、最寄りの電柱から遠く離れている場合には、自己負担を求められる場合もあります。水道に関しても購入土地の近くに水道施設がない場合は自己負担で水道管を引かなければならない場合もあることを承知しておく必要があります。幸いにして山に「沢」などがあって、「沢」から水を引ける場合には浄化装置や滅菌装置などを付ければ引用として使用できるのか水質などに関して行政当局に問い合わせることも必要です。下水に関しては公共下水用途地域でない場合は浄化槽の設置などを行う必要があります。
 ただテントを張ってキャンプだけを楽しんで帰るだけなら、別に何の制約も規制もありません。ただ木を伐採する場合には行政上の制限がないかどうかを確認してから行う必要があります。保安林や防風林に指定されている場合は、それなりの法令による規制を受ける場合があります。
 また素人が材木を伐採する際に、様々な事故に巻き込まれるケースもあるため、チェンソーなどの購入に際しては専門家の指導を受けるようにして下さい。技能の習得は勿論のこと、安全に関する法令等に関しても知識を得ておく必要があります。いずれにせよ、それぞれの専門家や行政に問い合わせて法令に触れず、安全で快適な林間キャンプを楽しんで下さい。

令和3年6月

 

 

 

 

新法で「家賃保証」のトラブル解消の切札になるか

 不動産業者が直に関わっている問題ではありませんが、賃貸住宅の建設を「家賃保証」制度を前提として勧誘する業者が様々な問題を起こしています。具体的には「家賃保証」をローン返済の根拠にしてアパートなど借家の建築を契約したが、「家賃保証会社」が建設会社とは別会社で、入居率の低さなどを理由に保証した家賃の引き下げや、家賃保証会社の「清算」や「倒産」などによる事業遂行不履行や、徴収した家賃などの使い込みなどといった問題が発生して社会問題化しています。
 そこで今年2月15日に現行の大臣告示に基づく賃貸住宅管理業登録制度(以下「告示制度」という)を廃止する告示が公布され、賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(以下「新法」という)の施行日(6月中旬予定)をもって廃止されます。
 そして国土交通省は4月23日に具体的な新法の「解釈・運用の考え方」という指針を発表しました。それによると「委託を受けて管理する賃貸住宅の戸数が200戸以上である管理業者は、管理業登録の義務が発生し、登録業者は以下の義務を負うことになりました。
1,業務管理者の配置
2,管理受託契約の締結前・締結時の書面交付等
3,金銭の分別管理
4,定期報告の義務
の4条件が義務付けられました。
 具体的には
1,登録業者は管理事務所毎に1名以上の業務管理者を設置することが求められ、その業務管理者は賃貸不動産経営管理士か宅建士の資格者保有者であり、国が指定する講習を受けることが必要となる。
2,管理受託契約の締結前に法で定められた事項を記載した書面を交付し、重要事項説明をしなければならない。また、重要事項説明書と管理受託契約書は別々に用意することが求められる。
3,については、登録業者は自己の固有財産と管理業務において受領する家賃・敷金、共益費等を分別して管理しなければならない。
4,については登録業者は管理業務の実施状況について、定期的に委託者に報告する義務がある、としている。
 新法に対する明確な「指針」が国により示されたことによりいわゆる「家賃保証契約」を巡るトラブル…相続対策や投資と思ってアパートを建設したものの、入居率の低さなどを理由に「家賃保証」契約の条件切り下げや管理会社の破綻…等といった事態がなくなることを期待します。ただ新法が適用される管理会社が「委託を受けて管理する賃貸住宅の戸数が200戸以上である」という条件が付されているため、200戸未満の委託しか受けていない家賃保証会社は新法の適用を受けません。
家賃保証契約という文言から家賃収入を夢見た地主や投資家が、結果として家賃収入が保証されず、返済が滞ったためにアパートを失った上に莫大なローン残を抱える悲惨な結末を迎えることのない「家賃保証制度」が新法により本来の姿になり、アパート建築会社と地主や投資家たちとのトラブル解消になればと思います。しかし、物事の本質として「甘い話には罠がある」と用心するに越したことはありません。自身の身は自身で守るしかありませんから。

令和3年5月

 

 

 

ハザードマップ考

 

 試しに国土地理院の「重ねるハザードマップ」のすべての「災害」項目を重ねて見て下さい。つまりハザードとして色分けされている「洪水災害」「土砂災害」「高潮災害」「津波災害」及び「道路防災情報」のすべてのハザードマップを一つの地図上に重ねて見るとどうなるか、試して頂きたいと思います。そうすると白地図の日本の殆どが白地を残すことなく様々なハザード色で塗り潰されていることが分かります。それが災害列島・日本の現実です。
 国土強靭化が叫ばれて久しいものの、一向に改善される兆しがないのは何故でしょうか。それでも国民は日々の暮らしでそれほど深刻な気持ちを抱いてはいないのかも知れませんが、不動産業者としてはかなり深刻です。なぜなら赤塗りの「土砂災害特別警戒地域」に指定されると「再建築不可」になるからです。
 再建築不可とはまさしく現在ある家屋を取り壊したなら、二度と新築の許可が出ないということです。それは「宅地」としての資産価値が殆ど失われることを意味します。洪水のハザードマップには「想定最大規模」の水深で色分けされているだけで、宅地が洪水マップの地域に入っていても「再建築不可」になるわけではありません。しかしお客さんに「この住宅地は洪水で最大水深○○メートルと想定される地域にあります」と説明して買って頂くのはかなり無理のある話です。
 ハザードマップとはまず平成13年7月改正の水防法に基づき堤防が決壊した際の浸水想定区域およびその際の水深を示した「浸水想定区域図」が作成されたのが最初で、その後に土砂災害防止法(第7条:警戒避難体制の整備等)に基づいて都道府県知事による土砂災害警戒区域の指定が行われ、これを地図上に図示した「土砂災害警戒区域図」が作成されるなどして徐々に様々な災害のハザードマップ、たとえば「高潮」や「津波」や「道路防災」などの害危険個所が追記されて、現在のハザードマップが完成されました。
 しかし日本で想定される災害はそれだけではありません。前述した様々な災害以外にも、活火山などの火口が出現する地点(範囲)や、溶岩流・火砕流・火砕サージの到達範囲、火山灰の降下する範囲、泥流の到達範囲などの火山災害予測図もハザードマップとして作成されています。
 ハザードマップの作成により防災意識が高まるのは災害列島に暮らす日本国民としては喜ばしい限りですが、一方で平成17年以前に建てられた中古住宅が「再建築不可」の地域に建っているとされた場合には資産価値が著しく減じることになり、しかも「土砂災害特別警戒区域」に指定されたまま平成17年以後改善されることなく放置されていることに割り切れないものを感じている国民も多いのではないでしょうか。せめて赤塗りの「特別警戒区域」を黄塗りの「警戒区域」に危険度を下げる工事なり国土強靭化を国なり地方自治体が行う必要があるのではないでしょうか。
 さらに「土砂災害特別警戒区域」に指定された土地や家屋は著しく資産価値が減価することから毎年課税される固定資産税は引き下げるのが妥当ではないでしょうか。

令和三年4月

 

 

 

不動産購入と固定資産税

 梅の季節も終わり、転勤などの多い季節になりました。
 不動産も忙しい時期を迎えますが、例年と少しばかり様子が異なるようです。それはコロナ禍の影響が出ているのか、タワマンが持て囃された都会ですら一戸建てが見直されているようです。これまで不動産需要が田舎から都会へ、さらに都心へと向かっていた消費者の目が、コロナ禍を境にネット環境の整った田舎へ、それも都会とアクセスの良い田舎へと関心が逆転しているようです。
 しかし地方といっても「ぽつんと一軒家」ではなく、新幹線の駅や空港からから比較的近い都会と交通アクセスのよい田舎が任期のようです。ともあれ、もはや地方は見捨てられた「僻地」ではありません。
 しかし一戸建てを購入するとなると気になるのが土地や家屋に関わる税金、つまり固定資産税のことです。ご承知のように土地や家を所有していると毎年「固定資産税」と「都市計画税」がかかります。それらの税金とはいかなるものか、簡単に説明します。固定資産税や都市計画税は土地や家屋の「課税標準額」によって決められます。
 その計算方法は以下の通りです。


    固定資産税=「課税標準額」×1.4%
    都市計画税=「課税標準額」×0.3% (都市計画区域のみ)
 となります。
  ただ家屋が立っている場合は「住宅用地の特例」として固定資産税や都市計画税が一定の条件で減免されます。その概要は以下の通りです。


   一戸当たり200㎡までの部分   固定資産税×1/6    都市計画税×1/3
   一戸当たり200㎡を超える部分     〃 ×1/3      〃  ×2/3
 ですから家が建っている方が「お得」ということがいえますが、棲めなくなった家でも取り壊さない方が「お得」かといいますと、2015年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が制定され、市町村から「特定空家等」に指定され、必要な改善措置の勧告の対象となった場合には「住宅用地の特例」が使えなくなり、固定資産税が上がります。

 それでは課税標準額とは何かといいますと、市町村によって評価された「固定資産税評価額」によって決まります。「固定資産税評価額」とは、固定資産税を課税するために市町村が評価する「「固定資産=家や土地」の価格のことです。
 そして固定資産税や都市計画税は所得税や住民税と違い、固定資産そのものに課税されるため、所有者本人の支払い能力に関係なく課税額を決定されるのが特徴です。
 土地の「固定資産評価額」は「適正な時価」であり、通常取引で成立する価格であるとされています。公表されている「時価公示価格(標準価格)」の約70%が固定資産税評価額とされるのが一般的です。
 家屋の「固定資産評価額」は「再建築価格方式」によって評価されます。再建築価格方式とは「まったく同じ建物を再建築したときにかかる金額」を計算し、算出された金額に築年数分の減額補正をして評価額を決める仕組みです。 築年数分の減額率を「経年減点補正率」と言い、基本的に戸建もマンションも計算の仕組みは変わりません。固定資産税評価額は、建築費用のおよそ70%になると言われています。 再建築価格方式では物価変動の割合に応じて工事原価で計算するため、実際の建築時にはタイムセール的に安く建築していても、評価額を計算するときには適正価格になるので注意が必要です。
 ただ家屋は古くなるにつれて「経年減点補正率」によって固定資産税評価額が下がりますが、金額が0円になることはありません。最終残存率という下限が決められており、最低でも2割は残り続けることになります。 つまり、実際に住めないような状態になっていても、最低限の税金はかかり続ける仕組みです。古くなった空き家でも課税され続けますので、ただ所有し続けるのは損することになりかねません。最後に固定資産税や都市計画税はその年の1月1日の時点での所有者に納付書が送付されることを書き添えておきます。 

令和三年3月

 





 

不動産取引と成年後見人制度

 不動産業に従事していますと「後見人」問題に直面することがあります。安易にご相談に乗ると、後で横領罪の共犯者に問われかねない事態に巻き込まれかねません。注意すべき事例として、年老いた父親か母親といった「独居老人」を持つ子供(子供といっても定年に近い壮年の場合が多いですか)いよいよ親を介護施設に入れなければならない差し迫ったご相談を受ける場合などです。
 親族が近所にいればそれなりに話は早いのですが、年老いた親が遠隔地でお住いの場合は、おいそれといかない場合があります。そもそも子供たちが親の判断能力がどの程度なのか、知らない場合すらあります。
 そうした相談を受けたなら、まず法廷後見人制度があることを告知し、同じ後見人制度でも親の「認知度」に応じて「後見」か「保佐」か「補助」かに分かれることを説明し、理解して頂かなければなりません。なぜなら「判断能力」に応じて成年後見人の「行使できる権利」が定められているからです。
 たとえば「判断能力が全くない」場合は「後見」となり、後見人には「代理権と取消権」が与えられます。次に「判断能力が著しく不十分」の場合は「保佐」となり、保佐人には「特定の事項以外の同意権と取消権」が与えられます。最後に「判断能力が不十分」の場合は「補助」となり、補助人には「一部の同意権と取消権」が与えられます。
 なぜ事細かくご説明したかといいますと、年老いた親が施設に入る際、財産などを処分する必要があるからです。さらには家屋敷を売却して施設費に充当するケースがあるかも知れません。その場合、安易に不動産売却の相談に乗って仲介・斡旋をした場合、本人または他の親族から訴えられて「刑事罰」に問われかねません。
 現在は判断能力に問題のある人に成年後見人を設ける「成年後見人制度」がありますが、以前は「禁治産・準禁治産者宣告制度」がありました。しかしその制度を適用すれば禁治産者などの事実が公示され、本人の戸籍に記載されるため、社会的偏見や差別を生じる等の弊害がありました。そこで平成12年から「ノーマライゼーション」や「本人の残存能力の活用」や「自己決定の尊重」から判断能力に障害のある人でも平穏な社会生活が営めるように「後見人制度」が制定されました。
 年老いた親を介護施設などへ入所させる前提として、不動産業者が屋敷や家屋の売却を依頼された場合、まず年老いた親の「認知度」を聞く必要があります。そして判断能力が不十分な場合は家庭裁判所に申し立てて法定後見人を選定してもらわなければなりません。
 まだ判断能力がある場合は、後に判断能力が不十分になった時に備えて「任意後見人制度」に則り、任意後見人を選び公正証書で任意後見人契約を締結しておくものもあります。いずれにせよ、年老いた親の屋敷や家屋を勝手に子供が売却することは出来ません。詳しくは「 成年後見制度の利用の促進に関する法律」にありますので、不動産処分の前に法律に則った措置を講じておくべきです。
 宅建取引士の試験で「後見人制度」は試験範囲外ですが、実務ではこうした事例に遭遇することもあるため、不動産業者の基礎知識として知っておくことも必要ではないでしょうか。

令和三年2月

 

 

令和三年、元旦

明けまして、おめでとうございます。
前年はコロナ禍の一年でした。全国一斉小・中・高校の一斉休校「要請」や、外出の自粛要請「要請」などがあって、消費経済に大きな翳りが出ました。 もちろん不動産業界にもコロナ禍の影響はありましたが、それも地域と業態によって大きく異なったようです。たとえば大都市のテナントビルを仲介している業者は極端な顧客減少に苦しんだようですし、専ら学生アパートの仲介を扱っている業者も新規契約がなかなか決まらない中での契約解除が相次いで経営的に打撃を受けたようです。 しかし不動産業界を全般的に見るなら、飲食や観光業者などでは対前年比50%以上もの業績不振といった壊滅的な影響は免れている、というのが現状のようです。地方の不動産業者では「古民家」への需要が出て、思わぬ問い合わせがあるようです。 ことにバブル景気の頃に需要を見越して建てたまま売れず、不動産業者が「塩漬け」として、夏場だけ貸別荘として維持していた物件に顧客が付いた、という話を聞くことがあります。もちろん価格は当時見込んでいた売却価格の1/2から1/5という捨て値で、不動産業者の儲けは有りませんが、損切でも良いとの判断から、格安で売られているようです。 今年はどんな年になるのでしょうか。先のことは分かりませんが、願わくばコロナ禍が収まり以前の日常が戻って来て欲しいものです。ワクチン開発は普通は二年程度かかるようですが、既に米国などでは接種段階になっているようですし、国内の製薬各社でも開発が進んでいて、塩野義製薬やフンジェスは治験段階にあり、第一三共など数社が治験の前段階に達しているようです。特効薬開発はワクチン開発よりもさらにも時間がかかり、十年以上かかるとされていますが、国内でも製薬や大学などの研究室で新薬が間もなく臨床段階に入るようです。 コロナ禍以後、と題するブログを以前に書きましたが、その時と今も考えはあまり変わりません。ワクチンや特効薬が一般に行き渡っても、濃厚な接触や閉鎖空間で密な集会を避ける習慣は残るでしょうし、ITを利用したリモート・ワークはコロナ禍以後も進むのではないでしょうか。

 

 

都道府県の魅力度とは

 今年も全国都道府県魅力度ランキングが民間調査会社の「ブランド総合研究所」から発表されました。それによると連続一位は北海道と変わりないものの、四年連続最下位だった茨城県が栃木県と入れ替わった。茨城県にとっては慶事ですが、最下位になった栃木県関係者はカンカンだという。
 さっそく栃木県福田富一知事が10月21日にブランド総合研究所を訪れて、調査方法の改善を申し入れたという。福田知事からすれば栃木県に暮らす多くの県民の自然な感情として、住めば都といわれているように、栃木県が決して魅力的でないとは思えないのでしょう。
 では都道府県の「魅力度」とは何だろうか。11年連続一位の北海道は多くの人から「魅力」があると評価されたのかも知れないが、それが必ずしも「住み良さ」と直結していない気がします。それは多分に厳寒の「冬」の北海道を知らない者の「魅力度」ではないでしょうか。
 「行ってみたい」魅力度と「住んでみたい」魅力度とは異なるのではないでしょうか。そうではない、「行ってみたい」魅力と「住んでみたい」魅力と、両方を併せての魅力度なら、二位が京都の指定席なのも首を傾げざるを得ません。なぜなら盆地特有の「冬寒く、夏暑い」京都で夏や冬を過ごそうとは多くの人は思わないからです。
 魅力度ランキングとは魅力度の調査とともに『認知度』と『情報接触度』に関するアンケート調査も行っているという。認知度や情報接触度も「魅力」に勘案されるのなら、各都道府県出身のアイドルやタレントによる広告宣伝活動や、行政によるアンテナショップの出店や、デパートなどでの特産品即売会などの開催により農林水産物の知名度アップを図るなども「魅力度アップ」に繋がるかも知れませんし、さらには道の駅や農産品直売所などの認知度の向上が必要なのかも知れません。茨城県が最下位を脱出したのは茨城県出身のタレントなどが茨城県の農産品を紹介する機会が増えたことが魅力度上昇に寄与している可能性があるのではないでしょうか。
 私たち不動産業者にとっては事業展開している都道府県や市町村の「魅力度」は気になるところだ。それにより少しでも移住して来れば、不動産需要が喚起されることになります。民間調査会社が発表する都道府県魅力度ランキングも他人事ではありません。

令和二年12月

 

 

「TOKYO TORCH」は現代の「戦艦大和」か

 

 三菱地所は9月17日に東京駅前で進める「常盤橋プロジェクト」の説明会を開き、以前公表した概要に加え、街区名称を「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」に決めたと発表しました。2027年度に完成予定の高さ390メートルの超高層ビルは大阪の「あべのハルカス」(地上300m)を抜いて、日本一高いビルになるそうです。内部にはホテルやホールを整備する方針で、新型コロナウイルス後の時代を見据えた施策を通じて、幅広い層に親しまれるエリアを目指す、と三菱地所では説明しています。
 しかし、どういうわけか私には先の大戦で時代遅れの巨砲大艦主義の「戦艦大和」が連想されてなりません。どうしてかコロナ禍により巨大ビルを建設する時代は終わったのではないか、と思われてなりません。
 その地域を象徴する巨大高層ビルを称して「ランドマーク・タワー」と呼ぶのだそうですが、人々の関心は規模やゴージャスさから離れて、簡素さと自然への回帰こそがこれからの時代のコンセプトになるような気がしてなりません。たとえコロナ禍が去ったとしても、以前のような過密や高度集積といった都市のコンセプトは時代遅れのものになるように思われてなりません。
 たとえホテル最上階の広々としたスウィート・ルームに魅力を感じたとしても、それは眼を開けている間のことでしかありません。ホテル本来の「宿泊」であれば、部屋数の多い広々とした空間に高額な宿泊料金を支払うことに「費用対効果」を感じられる人は極めて少数ではないでしょう。
 むしろ機能性や利便性といったことが宿泊施設に求められるなら、東京駅正面のホテルなど都心に用事がない限り「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」に宿泊する必要はありません。利便性の高いビジネスホテルに宿泊する方が理に適っているでしょうし、家族と共に団欒を過ごすというのであればキャンプ場か隣接するバンガローに宿泊する方が適切かもしれません。
 テレビやマスメディアは広告宣伝収入の関係から「巨砲戦艦主義」にならざるを得ないのかも知れませんが、庶民の関心事はテレビやマスメディアが囃し立てる方向とズレているのではないかと思われるコロナ禍真っ最中の秋ではあります。

令和2年11月
















コロナ後の社会-2-

 先月のブログで「コロナ後の不動産業」はどうなるのか、と私なりに予測してみました。その大前提として現在蔓延している新型コロナウィルスはここ当分の間、二三年は収束しないだろうという前提での予測ですが。
 なぜ当分の間、新型コロナウィルスの蔓延は収束しないと推測するのか。それは未だ特効薬が開発されそうもないからです。加えてワクチンの開発・製造は端緒についたばかりで、これから臨床試験などで認可・実施まで時間がかかるとおもわれます。退陣される安倍氏が来年の早い時期にワクチンを国民全員分を用意する、と発言されましたが、それは恐らく不可能かと思います。なぜなら新型コロナウィルスの変異速度が速く、せっかく開発され製造されたワクチンが的確に効果を発揮するのは困難だと思われます。従来型のワクチンは新型コロナウィルスには通用しないと思われるため、新型コロナウィルスの蔓延は暫くの間続くとの前提で推測するしかありません。
 確かにニューヨークでは一日当たり新型コロナウィルス患者発生人数が10人前後と落ち着いて、ほぼ収束した常態にあります。一時は爆発的な感染拡大に見舞われて、州兵がセントラル・パークに野戦病院のテントを無数に張って感染患者を隔離したほどでした。それは徹底した都市封鎖と自宅待機を強制し、同時にPCR検査をすべての人に実施して、感染患者を徹底して隔離した対策が功を奏したようです。
 しかし日本では「検査と隔離」を極めて限定的にしか実施していませんし、自粛要請も不徹底のまま「GO TO キャンペーン」を始めたため、新型コロナウィルス感染を沖縄をはじめ全国に拡散してしまいました。だから「集団免疫」が定着するまでの数年間は新型コロナウィルスの感染患者は現在の水準で発生し続けると想定するしかありません。
 そうすると、集客産業(エンターティメント、スポーツ・イベント、講演会や講習会、夏祭りや花火大会、等々の観客事業や、冠婚葬祭からカラオケ、飲食業といった「密」が前提となる業界)はまずアウトですし、観光業界も低調なまま推移すると予測するしかありません。
 その反対に多くの人から支持を集めそうなのがネット配信のyuo tubeや個々人が楽しむ登山やキャンプといった野外型の趣味ではないでしょうか。それも有名な場所ではなく、近場の余り知られてない地域密着の山やキャンプ場ではないでしょうか。もちろん、テレ・ワークは常態化するでしょうし、小・中・高校もネット回線を使った授業の実施なども考えなければなりません。
 不動産業界も上述した社会情勢を前提とした事業展開しなければ生き残るのは困難かと思います。ブームが去り価格下落の著しい地方の「別荘地」が見直され、人気物件として掘り起こしが来るのではないでしょうか。そして本格的な「地方の時代」を新型コロナウィルスの蔓延が結果としてもたらすかも知れません。そこに中国とのデカップリングがあって、世界(主として中国)へ拡散していたサプライチェーンの国内回帰の投資が盛んになると思われます。それも地価や規模の確保から大都市圏内ではなく、地方での工場立地を求めるでしょうから、コロナ後のソーシャルディスタンスと相俟って、地方の時代が本格的にやって来ると推測するところです。

令和二年10月

 



 

コロナ後

 コロナ後に向かって社会は既に変化しているようです。もちろん不動産関係もコロナ前とコロナ後とで大きく変化しています。
 それを象徴しているのが渋谷駅周辺の貸しビルの空室率だそうです。まだ確かな地区別空室率の統計は出ていませんが、貸しビルに入っている各企業の事務室賃貸の解約が相次いでいる、との情報が流れています。都市開発企業や大手貸しビル業者などでコロン前に立てられていた事業計画が見直しに迫られるのは必須のようです。
 しかし最も変わるべきはコロナ後の政治ではないでしょうか。コロナ後の落ち込んだ景気対策のカンフル剤として政府は「GO TOキャンペーン」を打ち出しました。「GO TO トラベル」から「GO TO イート」などの旅行や飲食の消費拡大を狙った「GO TO キャンペーン」です。しかし、それはコロナ前の発想でしかありません。人が旅行に食事にと外出して移動すれば確かに消費は増えるでしょうが、それは同時に全国的にコロナの感染拡大をもたらす結果にもなりかねません。
 消費を拡大し経済を動かすにはコロナ後の発想が必要ではないでしょうか。それは人の移動を前提としない経済活動や消費活動に特化すること、たとえばテレ・ワークはもちろんのこと国土強靭化のための公共事業や、海外からの生産工場Uターンの受け皿とすべく工業団地の造成といったインフラ整備で経済を回すことが必要度はないでしょうか。そのためには財政出動こそが必要となるのはいうまでもありません。
 旅行やレジャーに関しても、団体旅行や宿泊施設での大宴会ではなく、個々人か家族単位で自動車を使った移動と密にならないキャンプなどのレジャーを推奨することではないでしょうか。そうした促進策としては高速道路の引き下げや、自然環境に配慮したキャンプ場の整備などが必要です。自動車の移動を前提とすれば深刻な需要低迷に直面している自動車産業にとって朗報ではないでしょうか。
 このブログに関係する不動産業界に対する政策としては大胆な住宅減税を行って、裾野の広い住宅関連の消費と流通を活性化させる必要があります。それも新築だけでなく、中古物件の購入やリファインへの補助制度が必要です。それもバリアフリーといった限定的なリフォームではなく、中古マンションや中古物件全般のリフォームに対する「棲み替え補助金」などの創設が待たれます。コロナ後の生活スタイルの変化に伴い、都市の駅前集中から都市郊外へ、都市郊外から地方へと「生活の質と安全」を求める動きが出ています。この機会を逃さず政府は適切な人口分散化のための政策対応をしてはどうでしょうか。それは震災などの災害対策にもつながるのではないどしょうか。
 IT化社会にとって必須な日本の情報インフラは既に全国に光回線が張り巡らされていて、高速ネットワーク環境では米国以上の世界最先端国家になっています。しかしそうした情報インフラを駆使した日本製のコンテンツやアプリはGAFAに先を越されています。日本政府や日本企業は積極的にネットを駆使するコンテンツの開発に乗り出す必要があるようです。そして学校教育でもそうしたコンテンツ開発のノウハウをしっかりと教えて、AI化社会の未来を見据えた国家戦略が必要ではないでしょうか。コロナ後の未来の世界は人事交流ではなく、情報交流の世界になるのではないでしょうか。情報交流社会になれば人の移動は最低限に抑えられ、しかも地域間格差も解消して地方と都市と均衡ある人口配置が自然と出来上がって来るのではないでしょうか。
 安倍首相は大卒後の一時期、サラリーマンとして製鉄会社に勤務されていたそうですから「鉄は国家なり」という経済哲学はご存知のはずです。国内消費を喚起するにはコロナを契機として社会に形成されたマインドを、鉄鋼などの製造業を中心とした「モノ造り日本」の再生と発展に寄与する方向で誘導する政策こそが必要なのではないでしょうか。「GO TOキャンペーン」で浮かれて「食べ」「歩く」というスタイルは30年も以前のバブル当時の生活スタイルで、それはコロナ以前の発想でしかありません。国民の個々人が家族と地域社会を守る生活スタイルこそがコロナ後の社会に醸成された新潮ではないでしょうか。その新潮に合致した投資と消費の促進策こそが、コロナ後に求められる政治と暮らしのあり方ではないでしょうか。最後に「GO TO トラベル」は英文として誤りです。誰が考えたネーミング化は知りませんが、少なくとも英語圏の人たちから失笑されることは間違いありません。
 いよいよスローガンだけでない、本格的な「地方の時代」が始まる、とコロナ後に期待しているのは私だけでしょうか。

令和2年9月

 

 

コロナ後の不動産考-2-

 先月はこのブログで「コロナ後の不動産業」と題してコロナ後の不動産業の変化を書きました。その中で不動産に対して「駅前から郊外へ」という需要の変化が起きると指摘しましたが、今月は都会から地方へと不動産に対する需要の変化が起きていることを報告いたします。
 自粛要請解除以前から、私の暮らす地方で不動産需要が起きているのではないか、と感じていました。それも地方内での需要拡大ではなく、大都市から瀬戸内海の離島(離島といっても橋で本土と繋がっていて、近くの空港まで車で一時間以内)の土地を探す問い合わせが目立つようになりました。とはいっても、殺到しているというわけではありません。ただ離島の不動産はバブル崩壊以後見向きもされていませんでしたから、俄かに起きた問い合わせに奇異な感を抱いているいうのが実態です。しかも問い合わせの多くが都会からのものだというのが際立った特徴です。
 テレ・ワークの影響で勤労者が瀬戸内海の不動産を求めているのか、というとそうでもなさそうです。むしろIT企業などのような、何処に本社があろうと業績に大して影響のない業態が移転先として問い合わせている、というのが実態のようです。先日も東京のIT企業が離島に千坪ほどの土地があれば社用地として購入したいとの問い合わせがありました。
 南向きの海を見下ろす小高い丘の上にある土地を紹介しましたが、それでも500万円前後という安さです。バブル期には二千万もした土地ですが、バブル崩壊後は地価が下がりを続けて、現在では持て余した地主が500万円で売りに出していた者です。もちろん海沿いの国道から土地への取り付け道路もある立派な造成地です。都心の事務所を借りるよりは離島に社屋を建設する方が安いとのことのようですが、そうした経済的な側面だけでもないようです。コロナ後に生じた人々の心の変化も影響しているように思われます。
 もちろん別荘地や中古の別荘にも問い合わせがあります。バブル崩壊以降手頃な価格に下落した不動産価格とコロナの漠たる不安の日々を都会で過ごした人達のストレスは相当のものだったようで、都市から地方へ、という不動産需要の流れは決して一時的な「コロナバブル」ではないようです。
 羽田へ直行便のある近くの空港まで車で一時間以内なら、離島といっても決して不便な僻地ではありません。もちろん社会インフラとして光回線もありますし、下水こそ「浄化槽」対応ですが、上水道も通っています。年間約3万円払えば漁業協同組合の準会員として釣船を漁港に係船できます。これほど魅力的な環境が整っていれば「地方」が脚光を浴びても当然ではないでしょうか。地方の時代をもたらすのは「経済特区構想」ではなく、皮肉にもコロナ禍のようです。

令和2年8月

 





 

コロナ後の不動産業

 新型コロナウィルス禍はそれ以前と、それ以後とのライフスタイルを変える大きな痕を社会にも残しました。最も大きな変化はテレ・ワークに代表される「働き方」ではないでしょうか。事務所に出社して働くのではなく、家で仕事をするという労働のスタイルを根本から変えるものでした。
 ある意味、それは本社や事務所が不要になるということでもあります。働くために中心市街地のオフィスに通う必要がなくなり、在宅で仕事が出来るという、従来の常識を覆すものです。結果として経営者は中心市街地の高い家賃のオフィスを借りる必要がなくなり、通勤者も駅近くの高い住宅やマンションに暮らす必要がないことになります。
 つまり不動産に対する需要が変化することを意味します。「三密」を防ぐためにも、郊外のゆとりのある戸建てを購入しようとする動きと、良質な中古住宅を購入してテレ・ワークという「働き方」に合わせたリフォームをして、仕事部屋の「書斎」のある住宅で暮らそうとする動きが出てきました。
 それは在宅時間が長くなることから、住宅に対する高い「機能」を求めるようになります。たとえば防音や暖房などの高規格の設備が求められ、災害時にも電源が確保できるように太陽光発電の需要も高まるでしょう。
 反対に経営者はテレ・ワークの導入により街の中心部に借りていたオフィスは不要となり、オフィス・ビルの需要は低下して、オフィスの坪単位当たり賃貸価格は下がるでしょう。そうするとこれまで不動産投資先として保険会社や銀行などが推奨していた不動産投資先は押しなべて価値を下げると考えなければなりません。不動産に対する需要に大変革が起きています。
 そして「仲介」を主体とする不動産業務に対する需要は仕事内容こそ変化しますが、仕事量はむしろ増加すると思います。なぜなら駅近・街中から郊外への移転により「仲介」業務はプラマイ・ゼロとはならず、むしろ中古住宅などに対する相談業務が増えると思われるからです。
 しかしテレ・ワークにより住宅に求める質に変化が起きると思われます。「建売住宅」のような単一規格の戸建ての需要は減少し、人々の住宅に対する「質」こそが厳しく問われる時代になります。それは自宅で過ごす時間が長くなり、憩おう場でもあり仕事をする場でもあるという住宅に対する多様性が求められるからです。自宅で過ごす時間が増えれば、住宅に対する様々な要求は一段と高くなります。それにより高品質の「注文住宅」が増えるでしょう。中古住宅のリフォームにしてもテレ・ワークを前提とした改築になるでしょう。よって坪単価の建築価格は上昇し、郊外の安い宅地を購入することにより建築価格の上昇分を吸収させることになり、高品質住宅へ需要が増大すると思われます。コロナ以後の変化を見定めて、不動産業者も新しい時代に対応する必要があるのではないでしょうか。

令和2年7月

 

 

下がらない固定資産税評価額

 

 固定資産税評価額は実勢取引価格の70%ととされていました。確かバブルが弾ける前まではそうでした。
 1991年(平成3年)3月から1993年(平成5年)10月にかけてのバブルの崩壊があって、土地価格は釣瓶落としのように下落しました。しかし土地価格の高騰に連動して引き揚げられた固定資産税評価額はバブル崩壊後に土地の価格が暴落しても、それほど引き下げられませんでした。
 現在では固定資産税評価額の方が取引価格を上回っているのさえ珍しいことではありません。例えば瀬戸内海に面し堤防に沿った1,000坪余りの土地は、かつて海洋レジャー産業のマリン・ポートなど立地する地域だった。その土地の当時の実勢価格は数千万円に達していたと思われます。当然、固定資産税評価額も取引価格の高騰に伴って引き上げられました。
 しかしバブルが去ってクルーザーやレジャーボートを所有する人はいなくなり、年間数十万円もの係船料などを負担する顧客はいなくなり、マリン・ポートを運営していた会社は倒産しました。その地域全体が時代から見捨てられたように寂れましたが、更にその後の東日本大震災により「津波」の怖さが深く浸透して、海に面した土地価格は下落の一途を辿りました。昨年のことその土地は100万円で売買されたと聞きました。嘘のような話ですが、それが現実です。しかし固定資産税評価額は1,000万円に高止まりしたままというから驚きます。
 不動産価格は経済情勢により変動します。銀行利回りよりも価値を生む土地であれば需要があって取引価格は高くなります。が、土地価格が土地利用をして得られる価値を下回っていれば買い手需要がなくなり、そうすると土地価格は下落します。
 土地を担保に金融機関から借り入れしている企業もありますから、固定資産税評価額の下落は痛し痒しでもあります。土地価格が下落すれば担保物件の追加を金融機関から要求されるからです。だから実勢価格が下がっているからといって、固定資産評価額を連動して引き下げられては困る人もいるのが現実です。
 ともあれ、件の土地を100万円で購入した人は五月に地方自治体から送付された固定資産税の納付書の金額を見て驚くことでしょう。
 現在も地方都市では依然として不動産価格は下落の一途を辿っています。固定資産評価額と実勢取引価格との逆差額は開くばかりです。

令和2年6月

 

 








仮登記の「時効」は?


 不動産業に携わっていますと、時々抵当権や所有権移転仮登記が設定してある物件売買に関する相談を受けることがあります。法律の専門的な相談は弁護士にお任せするようにアドバイスしますが、抵当権はまだしも、仮登記がいかなるものかご理解していない相談者が多いので、簡単にご説明しようと思います。
 まず仮登記にはどんなものがあるか確認しておきましょう。仮登記には次の2種類があります。(ここでは、所有権に関するものを紹介しますが、所有権以外の権利の仮登記もあります。)

 1つ目は当事者間に権利変動が既に生じているのに、登記申請に必要な手続き上の条件が完備していない場合(たとえば、BがAから土地を買い受ける契約を締結し、実際に所有権も移転しているのに、Aがその土地を取得した際にもらったはずの登記済権利証(登記識別情報)を紛失しており、AB間の移転登記申請の際に添付できない場合等)にする仮登記です。

 2つ目は、当事者間にいまだに権利変動が生じていない段階のもので、(1)将来生じる可能性がある権利変動について請求権を保全する場合(たとえば、AがBに対する借金返済を確実なものにする(債務を担保する)ため、返済できないときに金銭の代わりにその土地を提供するという予約(代物弁済予約)をする場合等)にする仮登記や、(2)一定の条件を満たせば権利変動をする予定なのに、いまだにその条件が満たされていない場合(たとえば、AからBへの土地の売買において、Bが売買代金を完済することを所有権移転の条件にしているが、未だにBが代金を完済していない場合等)にする仮登記です。

 登記の目的は、1つ目の例では「所有権移転仮登記」、2つ目のうち、(1)の例では「所有権移転請求権仮登記」、(2)の例では「条件付所有権移転仮登記」となります。

 以上の仮登記に共通することは、将来生じる本登記(上の例でいえば、AからBへの「所有権移転」登記)の順位を確保しておくという効力があることです。つまり、これらの仮登記をしておくと、この登記が本登記になるまでの間に、その物件についてされた第三者の登記を、(その本登記で生じる権利と抵触する範囲内で)否定できるのです。

 たとえば、Bへの仮登記後に、CがAに融資してその土地を担保として抵当権の設定登記を受けたとしても、Bの順位が仮登記によって保全されている以上、Bの所有権移転の本登記がされてしまえば、Cへの抵当権設定登記は効力が否定されてしまいます。

同じように、Bへの仮登記後に、AからXに所有権移転登記がされた場合にも、Bが所有権移転(本)登記をしてしまえば、Bの本登記がXへの所有権移転登記に優先し、Xへの所有権移転は否定されてしまいます。

 しかし「所有権移転請求権仮登記」という仮登記そのもの自体には、消滅時効という概念はありませんが、予約完結権という権利は債権ですので、これを行使することができるとき(一般的には契約締結時)から10年を経過すれば消滅時効にかかることになります。もちろん「時効」の権利を有効にするためには「時効」の援用が必要です。「時効の援用」のためには「時効を援用する」旨を記した内容証明付き郵便を出す必要があります。詳しくは弁護士にご相談して下さい。

令和2年5月

 

 

 

 

 

所有権移転登記の義務化。

 かつてこのブログで「登記簿謄本に記載されている「所有者」が生存していない場合」の不具合を指摘したことがあります。なぜか相続などで土地や家屋を取得しても登記簿に記載することが義務付けられていません。よって利用価値の低い土地や老朽家屋などを取得して固定資産税の支払い義務から免れたいとの思惑から所有権を移転しないケースが多くみらているようです。
 しかしそれでは登記簿上に現実の所有者がいないという不都合が生じていることから、平成30年11月15日に「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の一部が施行されて、相続登記などがされていない土地や家屋について登記を促す特例が設けられました。さらに一定の手続きを経て、登記簿上に記載されている所有者が現実には存在していない場合などでも、土地や家屋を第三者が有効利用できる制度が設けられました。
 上記の措置法は老朽マンションなどを相続した者が「管理費」や「補修費」が嵩むことから所有権移転しないで空室のまま放置するケースが多発することへの対抗策として制定されたともいわれています。現在はマンション解体などで全世帯の同意を取り付ける必要はなく全体の4/5に緩和されていますが、それでも登記簿上の所有権者の実在が不明などもあって4/5の賛同を得ることが困難な状況に変わりありませんでした。
 上記に掲げた法務省及び国土交通省が所管する「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」は2018年11月より一部施行され、2019年6月に全面施行され、それにより行政が強制執行できるようになりました。
 またこの特別措置法では名義人の死亡後長期間にわたり相続登記がされていない土地についても、法定相続人等を探索した上で登記官の職権により長期間相続登記未了の旨等を登記に付記し、法定相続人等に登記手続を直接促すなどの特例が設けられました。
 ただマンションなどの区分所有不動産の登記に関して、相続した者に幾許かの経済的な利があるか、もしくは損失が負担とならない場合でなければ「相続放棄」が続出するケースも想定されます。「負の資産」と化した老朽マンションを敢えて相続する者はいないと思われるからです。

 上述した通り、2018年11月15日から相続登記が放置される可能性のある土地に対応するために、一定の土地について相続登記の登録免許税の免税措置も開始されました。そして2019年5月17日には、所有者に関する情報が正しく記載されていない「変則型登記」を減らすための法律が可決しました。
 所有者不在による土地が利用できないことによる機会損失や、相続人等の所有者同意を取り付けるのにかかるコスト、固定資産税の滞納などによる経済的損失は国土計画協会の所有者不明土地問題研究会調査によると、2017~40年までの累計で少なくとも約6兆円にのぼると推計されています。日本全国の不動産登記の約20%が所有者不明の不動産といわれる現状を解決するためにも、所有者不明土地の発生抑制・解消に向けて当局が改正法に則って早急に取り組むことが望まれます。

令和2年4月


 

 







 

「敷金」が制定されました。

 年度変わりを迎えて、転勤や進学などで賃貸契約に遭遇する機会の多い季節になりました。新居へ移転するに際して契約する「賃貸契約」は必ずしも楽しいものではなく、何かにつけて不動産業者の評判を悪くしているのが「敷金」を巡るトラブルです。
 そこで国は120年ぶりに民法改正を行ない、2020年4月1日から「新民法」が施行されることになりました。今回の民法改正では200近くの項目が見直されていますが、その主な改正点は「契約や金銭の支払いに関するルールを定めた民法の規定(債権法)を見直す改正法案」です。その中でも特に不動産業者と一般消費者に大きな影響があるのが「敷金」に関する改正です。
これまで「敷金」は法的な根拠がなく、慣行として行われていたため問題が多々ありました。そこで「敷金」についてルールを明確にする必要がありました。
まず「敷金」とは、借主が家賃等を支払えなくなったときのために大家が入居時に預かる保証金のようなものです。その金額はアパートやマンションにより決められており、会社などが借りる場合などだと家賃の半年から1年分くらいのケースもありますが、概ね1ヶ月分〜3ヶ月分くらいが相場とされています。
 今回の法改正で敷金の定義が明確化されました。2020年4月1日以降は名称に関係なく賃料の担保目的ならば「敷金」として定義されることになります。まず賃貸契約を締結する際に「敷金」は何を目的として徴収するのかを明確化しています。
同時に「敷金」の返還時期についても明確にされ、返還時期は「賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき」と定められました。また「敷金」の返還金額の範囲についても明文化されました。 
 法務省民事局「民法(債権関係)の改正に関する説明資料」よりますと、敷金の返還金額は「払った敷金から未払い債務額を引いた金額」とされています。未払い債務額とは損害賠償、未払い賃料、原状回復費用などがそれにあたります。基本として毎月の賃料を払っていて、借主の責に帰すべき原状回復負担分がないとすれば「敷金」は原則として全額返還されます。敷金が減額される場合とは通常損耗(賃借物 の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年劣化以外の、借主の責に帰すべきとされる損害を回復する場合だけです。具体的には以下に示す通り、通常の賃貸物件使用状況である限り、借主は原状回復費用を負担しなくてよいことになります。
<経年劣化による損耗とは次に掲げるものなど>
 ・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
 ・テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
 ・地震で破損したガラス ・鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)
<借主の責に帰すべき経年劣化に当たらないもの>
 ・引っ越し作業で生じたひっかきキズ
 ・タバコのヤニ・臭い ・飼育ペットによる柱等のキズ・臭い
 ・日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損、等

 つまり「借りた当時に戻すのが原状回復」ではないということになります。経年劣化による「減価」は原状回復の対象にならないと明文化したことが今回の法改正の大きな点です。
 借主の負担については、建物や設備の経過年数を考慮し、年数が多いほど負担割合を減少させる考え方を採用しています。(このことを減価償却といいます) 例えばクロスなどはどんどん時間が経てば経年劣化します。賃貸契約解除し退去時にクロス等の新品への張り替え費用を借主に全額負担させようとする不動産業者がいますが「退去時のクロスの価値」だけを払えば良いことになります。
ちなみに新築で入居した借主は6年経過でクロスの価値は1円となります。ですから前入居者が新築から3年住んでいて、その直後に入居して3年経過すればクロスの価値は1円になります。つまり六年経過したクロスの「張替費用」は一切請求されないことになります。クロスや畳と同様に、問題となっているのがハウスクリーニング代の請求ですが、これも経年劣化以上に借主の責に帰すべき棄損があると明らかでない限り、ハウスクリーニング代を敷金から差し引かれることはありません。
 ただし、今回の法改正は2020年4月からの施行となります。そのため、現在すでに契約している場合は改正前の民法が適用となります。つまり、現状入居している方や4月前に入居する方は今回の改正が適用されません。
 ただ改正法が適用されない賃貸契約者でも、国土交通省が出している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を知っておくことで上記のルール改正と同様の扱いを受けられる可能性があります。
 ちなみに「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは国土交通省が退去時における原状回復をめぐるトラブルの未然防止のために、賃貸住宅標準契約書の考え方、裁判例及び取引の実務等を考慮のうえ、原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をまとめたものです。
今回の民法の改正は国交省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に則ったものとなっています。
現在すでに賃貸契約を締結されている方は現在の契約が有効なため、契約内容に沿った扱いが原則ですが、法改正がなされることからガイドラインを参考にして話し合う必要があります。
参考までに下に国交省の「ガイドライン」を記しておきます。
 賃貸契約に関するトラブルを防ぐために、今後「法改正」が望まれるのは賃貸契約に際して一年ごとや二年ごとの頻繁な「契約更新」条項や、不動産所有者から賃貸契約した業者が又貸しする「再賃貸契約」に関して指針となるガイドラインなども示して頂く必要があるのではないでしょうか。
<国交省>
 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版)は以下のリンクからダウンロードできます。ガイドラインは全173ページ(1.93MB)になります。各章単位でもダウンロードが可能です。構成は以下の目次のとおりです。ガイドラインに掲載されている一部の様式については、MicroSoft Word形式でも提供(目次欄に掲載)しておりますので、是非ご活用ください。
  ◆ ガイドライン全文(全173ページ)     [PDF形式:1.93MB]
  ◆ 第1章 原状回復にかかるガイドライン   [PDF形式:989KB]
  ◆ 第2章 トラブルの迅速な解決にかかる制度 [PDF形式:397KB]  
  ◆ Q&A                  [PDF形式:438KB]                               ◆ 第3章 原状回復にかかる判例の動向    [PDF形式:717KB]

令和二年三月

 

 

 

「反社会的勢力の定義は困難」では困ります。

 

 政府は、反社会的勢力の定義について「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定したそうです。由々しいことだと騒ぎ立てるつもりはありませんが、「反社会的勢力の定義は困難」との閣議決定は不動産の仲介や売買を業として暮らしている者として看過出来ませんので、今月のプログに取り上げました。
 改めて指摘するまでもなく、10年以上も前から不動産業者には「反社会的勢力」に「賃貸物件を仲介してはならない」また物件売買の「斡旋」をしてもならない、とされています。
 それは2007年に政府がまとめた「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」で「反社会的勢力」とは〈暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人〉と、明確に定義され、そうした勢力を社会から排除しようとするメッセージでした。しかし、その肝心要の「反社会的勢力の定義が困難」だといまさら閣議決定されても困ります。
 不動産業者のことだけではないでしょう。民間企業でも反社会的勢力との関係遮断に取り組んできました。また反社会的勢力を撲滅しようとしている全国の警察関係者も、おそらく閣議決定に驚いているのではないでしょうか。都道府県など地方自治体で施行されている暴力団排除条例も骨抜きになってしまい、行政などで社会を明るく住み良くしようと努力されている方々やその関係の方々も同様な思いではないでしょうか。
 全国の不動産業者は「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人(以下、「反社会的勢力」といいます)排除に関する社会的責任を認識し、反社会的勢力による被害を防止し、当社の業務の適切性および健全性を確保する」との基本方針を宣言しています。その宣言の根底となる「反社会的勢力」の定義をしっかりして頂かなくては「部屋を貸さない」ことにより「反社会的勢力」の人たちから人権侵害の訴えを起こされかねません。
 速やかに「反社会的勢力の定義は困難」との閣議決定を取り消して、しっかりと反社会勢力と対峙する国の姿勢を打ち出して頂かく必要があります。不動産業者は何を根拠に「反社会的勢力」に対処すれば良いのか「現場」は混乱するばかりではないでしょうか。

令和二年二月

 

全国各地の「通行禁止」紛争を考える。

 全国各地で「私道を通行禁止にする」という紛争が起きているようです。つい先日は長崎市青山町の住宅地内を縦断する私道を所有する業者が住民に通行料の支払いを求めて道路の一部を封鎖している問題が裁判沙汰にまでなったようです。住民側は11月3日付で通行妨害の禁止とバリケードの撤去を求める仮処分を長崎地裁に申し立てを行いました。住民側の代理人弁護士によると、申立人は住民7人で車で通行できることを前提に分譲地を購入し、当初の開発業者から通行料の説明もなかったことなどを挙げ、住民側に「通行地役権」や「通行権」があると主張しているもようです。
 このように長年地域住民が通行していたものを、登記簿上の土地所有者が「通行禁止」とすることから全国各地で争いが起きているようです。

 土地所有者が「所有権」を盾にして「通行禁止」の実力行使に出るのはなぜでしょうか。もちろん土地所有者にも言い分はあるようです。が、公共の用に供して来た土地を「所有権」を盾に「通行禁止」できるのかという疑問があります。ちなみに土地の地目が公衆の用に供される道路部分の土地に対する固定資産税は非課税になっているケースがほとんどです。
 また「道路」といってもその形態は様々です。大きく分けて国や地方自治体が所有する「公道」と個々人や企業が所有する「私道」に大別されます。その名の通り「公道」は国や地方自治体が管理し「私道」は土地の所有者が維持・管理する必要があります。
 御存知の通り、家を新築するには「接道義務」があります。一定の道路(幅員2mないし4m)に2m以上接してなければ家屋の新築は許可されません。またすべての道路が「接道要件の道路」と認められるのかというとそうではありません。詳しくは建築基準法第42条に列記してありますが、その第2項に「みなし道路」の規定があります。「みなし道路」とは一般的に「2項道路」と呼ばれていて、建築基準法が制定された昭和25年以前から家屋が建っていた場合、便宜的に現状を追認するために道路要件に満たない道路でも家屋が新築できるとした措置です。現在では地方自治体は「みなし道路」の認定を取り消す方向で動いています。

 ただ「みなし道路」の廃止に関しても実際に適合していない家屋を取り壊すとなると社会に与える影響が大きいため、家屋密集地などでは道路基準を満たすように新築許可に当たっては「セットバック」方式による道路拡張方法を取っています。その手法だと道路拡張まで数十年という長期間を要することから、行政に対する地域住民の不満も根の深いものがあるようです。

令和二年1月











 

災害と不動産業者の責任

 このところ台風が15号,19号と立て続けに日本列島を襲い、全国各地に深刻な被害をもたらしました。なくなられた犠牲者にお悔やみと被災された方々にお見舞い申し上げます。
 それにつけても、映像で水没した新築住宅などを見るにつけ、不動産業者として忸怩たる思いを禁じ得ません。もちろん不動産業者として私たちは法に従って土地の仲介などを行い、適法な住宅地を提供させて頂いています。そしてお世話させて頂いた土地で、お客様が幸せな暮らしが末永く営まれるのを念願してやみません。
 重要事項説明書には「土地」や「家屋」に関して様々な説明すべき事項が網羅されています。当然ながらハザードマップの告知もしなければなりませんし、そもそも特別警戒区域には家屋が新築できないことも告知義務が課されています。家屋建築土地と同様に道路に関しても、当該土地が接道義務を果たして家屋が新築できる土地なのかを説明しなければならないことになっています。ただし数十年もの遠い過去に水害被害などがあったのかまで説明する義務はありません。つまり不動産売買に関して今後の課題として、河川よりも低地の「浸水地域」か否かという土地購入者にとって「不利益な情報」を告知する義務が不動産業者に課されるのか、という問題があります。
 さらにマンションやタワーマンションの販売に関しても、その地域周辺が浸水した過去があるのか、あるいは配電施設が地下にあるのか。マンションに非常電源が設置してあっても、その設置場所が地下かどうかの説明もしなければならなくなるのか。そして、水害被害を受けた場合に今回の武蔵小杉のタワーマンションのケースのように、一定期間居住の用を満たさなくなった被災期間に、ホテル等に移って暮らした費用負担をどうするのか、という取り決めもして置く必要があるかも知れません。なぜならタワーマンションでエレベーターや水道などが止まった場合は居住に適さないからです。そうしたある意味居住に適さない「欠陥住宅」を販売した不動産業者に損害賠償責任が全くないとは言い切れないからです。
 自然災害は損害賠償請求の埒外だと切って捨てているのが現在の法律ですが、ゴルフ練習場の鉄塔が倒れて下敷きになった家屋の所有者に対して、ゴルフ練習場のオーナーに全く責任がないとは言い切れないと思います。そして長い年月浚渫を怠って、川に中州が出来て樹木が茂っていた状況に、行政の責任は皆無だと言い切れるのでしょうか。秋川の濁流が家屋の基礎下の土地を削ったのは明らかに中州によって流れが変わったのだと、誰の目にも因果関係が見て取れます。行政の河川管理責任を問う声が上がっても、不思議ではありません。終の棲家が不幸の元になっては堪りません。
 歴史的に治世者の最大の課題は「治山、治水」でした。それは現代でも変わりなく、いかに情報が進んでも最終的に対処するのは生身の人です。一炊の蒸気で死ぬ人に過ぎません。情報化の推進もさることながら、「治山、治水」を疎かにしてはならないとの思いを強くする昨今です。

令和元年12月

 

 

 







 

地方創生事業の前提条件







 あるゼネコンから久々に「山口県東部に一万坪の工場用地はないか」との問い合わせがありました。なんでも機械製造会社が新規工場を山口県東部に建てたいとのことでしたが、詳細を詮索しないのが業界の「常識」ですから、相手企業名や事業内容に関しては全く知りません。
 そこで当然のように県東部の地方自治体に「一万坪の工場用地はありますか」と問い合わせをしました。バブル全盛期に各地方自治体が「企業団地」を競うように造成して、分譲地がなかなか売れなくて困っていたものですが、現在では各自治体が造成した企業団地に「売れ残り」はなく、一万坪の確保は困難な状況だ、ということが分かりました。
 御存知のように山口県知事は「山口県の創生」を掲げて、活性化を宣言しています。しかし企業を誘致すべき優良な企業団地なくして、いかにして山口県を活性化すというのでしょうか。まさか徳山の「中心市街地活性化」と称してシャッター街に三年間の事業継続で出店を募る「活性化」ではないでしょう。それだと三年間だけ営業して次々と廃業する居酒屋や喫茶店が出店するだけで終わります。それも「活性化」といえば「活性化」かも知れませんが、到底行政が税を投入して実施すべき事業とは思えません。
 そして愕然とするのは国土交通省が発表している「道路舗装率」の都道府県ランクで山口県が24位という現実です。何となく山口県の道路は良い、という観念がありましたが、いつの間にか24位まで後退していました。全国平均の舗装率が52.2%で山口県が51.7%ですから、全国平均をも下回っています。この不都合な事実を地方自治体の執行部および議員各位は御存知なのでしょうか。
 地方創生を提唱されるのなら、そり基礎となる企業団地や道路整備に全力を傾けるのはイロハの「イ」ではないでしょうか。いつの間にか地盤沈下している山口県の現実を私たちはしっかりと認識しなければなりません。

令和元年11月










 

「空家」問題で山口県との協働を

 

 全国的に空家が問題になっているようです。山口県でも空家が12万6千戸もあり、全家屋に占める割合は全国平均よりも1%ほど高い17.6%にのぼっているようです。

 空家の何が問題なのかというと、いわゆる家屋の「放置」により老朽化が進み、シロアリや害虫や小動物の巣になりやすく周辺環境に悪影響を及ぼすと同時に、不審者の侵入などで失火などになりかねないからです。しかも通学路や道路に面して建っている場合には、崩落などにより直接的な被害を通行人に及ぼすことも考えられ、地方自治体などで家屋撤去の「強制執行」措置を取りやすくする法律も制定されました。

 しかし「空家」をすべて撤去するというのは経済的にも資源再生利用の面からも合理的とはいえません。出来るモノならリフォームやリノベーションにより新たに人が棲めるようにする方がより良いのではないでしょうか。山口県などもそうした「空家対策」として「棲む」前提で空家のリフォーム費用などを一部補助しようと条例を制定しました。それは省資源や地域社会の維持にとって望ましい政策だと思います。

 ただ山口県内だけを対象として考える政策では余りに効果が限定的です。山口県の「空家」の現状と、県の対応策を広く全国に知らしめなければなりません。そして「空家」をリフォームなどにより山口県に移住する人たちに廉価な住宅として提供できるシステムを作って、大都市圏を主なターゲットとして広報活動を行う必要があるのではないでしょうか。

令和元年10月

 

 

「棄国」よりも「地方への移住」の勧め。

 

 ジムロジァーズ氏はいわずと知れた投資企業ロジャーズ・ホールディングスの会長です、ジムロジァーズ氏本人はウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界三大投資家」と称されている投資家です。いわばウォールストリートを代表する米国の「ハゲ鷹」の一人に数えられています。
 その彼が先月来日して様々なマスメディアに登場したことは御存知でしょうが、彼がマスメディアを通して常に言っていたのは「日本は投資対象として魅力に欠ける」ということでした。彼は持論のように「経済成長率の鈍化した日本で消費増税するのは狂気の沙汰だ」と現政権を批判していました。グローバリストの彼がグローバル化を推進する現政権を批判するのは驚きでした。そして彼の肝となる主張は「移民」の勧めでした。彼が米国から居を移しているシンガポールに日本の高齢者も移住してはどうかと呼び掛けていました。
 実際に年金世代が日本から脱出してタイやフィリピンなどに移住する人がかなりの数に上っているのも事実のようです。しかし移住先で貧困化してホームレスになっている高齢者も珍しくないようです。移住には用意周到な準備と的確な現地社会制度の調査が必要なのは言うまでもありません。
 だがたとえ移住が成功したとしても、年金世代の高齢者が「国を捨てて」移住するのもどうかという思いがしないでもありません。ジムロジャース氏のようなグローバル世界で生きている投資家にとって、何処に棲もうが問題ない、ということなのでしょうが、多くの日本国民は「移住」に対して少なからず抵抗を覚えるのではないでしょうか。
 かつて国が国民を捨てる「棄民」という言葉がありました。しかし「移住」の勧めは、ある意味で「棄国」ということになりはしないでしようか。高齢者といえども国民が「国を捨てる」とは穏やかではありません。
 ジムロジァーズ氏は「暮らしのコスト」とりわけ家賃と食費を例にとって、少ない年金受給者でも東南アジアに移住すれば豊かな暮らしが送れる、と「移住の勧め」をしています。が、彼が東京の家賃や食費を「ヒキアイ」に出して比較するのは地方に在住者にとっては違和感満載です。地方では選り好みさえしなければ中古住宅の家賃は格安ですし、食費も自給自足を目指せば必ずしも不可能ではありません。
 ですから大都会から地方への移住は「移住」よりもお得だといいたいのです。そして国民の大都会から地方への移動を支援するシステムを、地方自治体は不動産業者を巻き込んで構築する必要があるのではないでしょうか。
 地方には耕作放棄された広大な田畑や、多くの空き家が残されています。それなりのオリエンテーションを行えば決して地方枝の移住のハードルは高くありません。何よりも同じ言語を使う日本国民ですから理解し合うのに不便はありません。地方を生かすためにも、「棄国」ではなく、地方への移住を不動産業界も一考すべきではないでしょうか。

令和元年9月

 

 

 

    

不動産業界の「黒船」か

 

 不動産業界のamazonかと騒がれている会社があります。その名はOYO LIFE(オヨ ライフ)です。日本では今年一月現在で首都圏を中心に急成長していますが、まだ一般的には馴染みが薄いようです。そもそもOYO LIFEとはインドの不動産会社OYOが日本で立ち上げた不動産会社です。その特徴は賃貸事業の面倒な手続きをなくして「不動産事業の電子化」や「敷金・礼金・仲介手数料・ゼロ」などといった不動産業界の常識破りの事業展開にあります。OYO LIFEの経営者は勝瀬CEOとのことです。
 不動産業界は宅建業法で契約等で厳格な規定が定められていて、ペーパー・レス化が最も遅れている業界だといわれています。不動産賃貸でもホテルを予約するように電話だけで入居や退去ができるなら素晴らしい、と思う人も少なくないようで、首都圏などで破竹の勢いで賃貸物件の数を増やしているようです。今年一月現在で抱える賃貸物件は1000を超えているといいます。勝瀬CEOは今後益々「不動産業界のIT化を画期的に促進する」と意気込んでいます。もちろんWebサイト上で入居したい住宅や部屋を選び、保証人不要、保険や光熱費などの手続きなどもすべてOYO LIFEが行うということだそうです。
 ではどんな経営をしているのかというと、OYO LIFEの事業手法はレオパレス21などのアパート建設と不動産管理を併せて行う「サブリース契約」を取り入れて、オーナーから丸ごと借りて管理会社が貸し出す手法でペーパー・レス化を実現しているようです。
 つまり2017年10月から貸主は「重要事項説明書」をテレビ電話などで説明すれば書面で交付する必要がなくなったことを受けて、OYO LIFEがオーナーと賃貸契約を締結した物件をOYO LIFEが貸し出すから「重説」は対面で説明する必要竿゛ないという理屈のようです。たださすがに契約書は書面を交付しなければなりませんから完全なペーパ・レス化を実現したわけではないようです。
 しかしOYO LIFEが展開する「サブリース」契約の賃貸マンションは家電や家具が備え付けられていて、身一つで転居が可能となっています。その代わり家賃は付近の賃貸相場より少し高めに設定してあり、勝瀬CEOは「18ヶ月まではOYO LIFEのマンションに住んだ方がお得な家賃設定」してあるとのことのようです。つまりイニシャルコストをなくした分をランニングコストで回収するビジネス・モデルのようです。ただ条件として最低でも30日以上は住んで頂くこと、そして90日を超える場合は再契約の必要があるとのことです。それは30日未満では賃貸住宅とみなされず旅館業法に抵触する恐れがあるからです。そして90日を超える場合は「法律上一時使用目的の建物賃貸借」と認定されない恐れがあるからです。
 OYO LIFEにより完全なペーパー・レス化が不動産業界で実現できたわけではありませんが、インドのOYO本社はソフトバンク・ビジョン・ファンドから10億ドルの資金を調達していて、日本での事業展開で初期投資や当座の運転資金に困ることはないようです。ペーパー・レス化という不動産業界の常識に挑むOYO LIFEは果たして不動金業界の黒船になるのでしょうか。それにしても借り手が反社会的な人ではないが、あるいは居場所を転々と移す「オレオレ詐欺」などの犯罪組織でないかなどを、どのようにして見分けるのか疑問が残ります。ホテル事業者が賃貸不動産業者へ近づいた「ウィークリー・マンション」に対して、不動産業者がホテル業者に近づいたOYO LIFE方式と、今後どうなるのか興味のあるところです。ちなみにOYO LIFEのキャッチ・コピーは「旅するように暮らそう」だそうです。

令和元年八月

 

 

 

 

「すべてのマンションは廃墟になる」

 

 マンションのみならず、すべて形あるものは「空」に帰す、とは般若心経に説かれています。マンションであろうと一戸建てであろうと「形」あるものは永遠ではないのは自然の摂理です。いつかは老朽化して手を入れざるを得なくなります。
 しかし住宅評論家の榊淳司氏は「すべてのマンションは廃墟になる」との著書を著して、ことさらマンションに限定して警告しているのはなぜでしょうか。榊氏には「絶対にタワーマンションを買ってはならない」との著述もあります。それほどまでに榊氏が「コンクリート集合住宅」を忌み嫌う理由とは何でしょうか。
 まず榊氏がマンションは必ず廃墟になる、と論述している根拠はマンションを構築している構造体の「鉄筋コンクリート」あるいは「鉄骨コンクリート」という建築素材を論拠に上げています。つまり鉄は必ず錆びて永遠に家屋を支える素材ではない、というのようです。材木を組み合わせた戸建ての日本古民家が百年の星霜を超えて建ち続けるのとは根本的に異なるというのです。
 マンションの耐用年数が50年だとすると、新築マンションは一年毎に2%減価します。そして50年を経過した時点で耐用年数が尽きて「解体撤去」と「新規建設」が課題にあがってきます。そうしなければマンション居住者はホームレスになりかねません。その場合の大問題は「取り壊し」です。マンションの場合居住者の4/5以上の賛成を得て「解体撤去」が出来ることになりましたが、幸運にも「解体撤去」が決まったとしても、一戸平均500万円の「取り壊し費用負担」が重くのしかかってきます。
 しかも取り壊した後に残る「資産」はわずからマンション敷地の「区分所有の土地」しかありません。とてもマンションで所有していた専有面積から遥かに及ばない土地しか「資産」として残っていないことになります。
 建替え積立金をマンション管理組合で積み立てていればまだしも、管理組合の積立金が修繕費にすら足らないマンションがほとんどで、築後30年が目途とされる大規模修繕すらままならないマンションが殆どです。つまり減価を終えたマンションは次の新築を目指して解体撤去を行い、次にマンションを新築しなければ「持ち家」は減価とともに消え去ることになります。
 かつてのように容積率緩和で建増しされる部屋数を売却して従来からの入居者が低廉な価格で新築マンションに帰還できる、という「夢のような話」も現在のマンションは緩和された容積率いっぱいに建てられているため、将来にそうした「夢」を託すことも出来ないようです。
 だから将来老朽化したマンションは見捨てられ廃墟になる、というのが榊氏の結論のようです。さて、皆様はいかがお考えでしょうか。

令和元年八月

 

 

 




「家を買うな」と主張する評論家たち

 

 テレビなとで活躍している人気経済評論家の上念司氏は「家とマンションは買うな」との持論を展開しているようです。同じく経済評論家の森永卓郎氏も「この先不動産と株価が下落する」と不動産業者にとって不吉な予言をしています。 その反面、賃貸住宅の高齢者の多くが行き場を失って生活困窮者に転落している厳しい現実もあるようです。ことに未婚率が高くなり独身のまま高齢化した場合が困難な状況に追い込まれるようです。それは賃貸住宅に居住している人がそのまま定年を迎えると収入減となり、現役時代から暮らしている賃貸住宅に入居し続けるのが困難になる反面、新たに賃貸住宅に入居するには「保証人」や「保証制度」を利用するにしても、なかなか「保証人」を見つけづらくなり、「保証制度」を利用するにしても審査基準が厳しくなる現実がありようです。また貸す方からしても独居老人に貸すのを嫌がる傾向が強いのも事実です。
 そうした現状を踏まえて、2017年10月に国交省は「住宅セーフティネット法」を改正して、家賃補助や改修工事への補助と引き換えに、所得の少ない人や高齢者などの「住宅確保要配慮者」の入居を断らない、を優先的に入居させる賃貸住宅を「セーフティーネット住宅」として登録させる制度を創設しました。その目標は「2020年度に15万5000戸」だそうですが、それに対して制度開始から半年経った時点で登録された賃貸住宅は600戸余りと目標達成率0.4%と厳しい状況です。ことに東京都では登録戸数ゼロということで、民間賃貸住宅市場が貸し手市場の場合はなかなか難しいようです。
 国交省は将来的には「セーフティーネット住宅50万戸」を見込んでいるようですが、抜本的な改善策を立てない限り達成は困難なようです。今後生涯未婚率が上昇する分も見込めば、東京都だけで70万戸近い高齢者借家制多数が増えると予測され、高齢者の自宅難民が続出すると思われています。
 投資の観点から上念氏や森永氏は「持ち家は割に合わない」と主張しているのですが、一般の人にとって家の購入は投資目的ではなく「生活の場の確保」をするためのものです。ことに高齢者が「生活の場」を失えば現役世代よりも所得が低いため、ホームレス生活に転落する可能性が高いと思われます。そのためUR(独立行政法人都市再生機構)では民間と異なり国籍不問や職業不問と「入居基準」を低くしています。その上保証人、礼金、仲介手数料、更新料などの「4なし」を売り物とし入居審査も比較的緩くしているようです。しかしそうした「入居基準」の引き下げはURそのものの治安や住環境の悪化につながるとともに、そもそもURの団地は家族向けのものが多く、一戸当たりの専有床面積も広く家賃も広く設定されています。従って、独居老人にとってはUR入居は割高感が強いようです。
 つまり定年を過ぎても賃貸住宅に住めるのは定年後も十分な所得のある高齢者に限られる、ということです。「家を買うな」と主張する経済評論家たちは定年後も所得の下がる心配のない売れっ子評論家か、「家」を投資としてみる評論家の「極論」でしかない、というしかありません。平均的な人生では庭付き一戸建てを手に入れることが「上がり」とする「住宅すごろく」はいつの時代でも変わりないようです。

令和元年6月



























  • 「古民家」考
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  •  テレビなどで取り上げられる「古民家」が地方にゴロゴロ転がっているわけではありません。風格のある年代物の古民家は素晴らしいが、殆どの「中古住宅」はただ単に古い家屋に過ぎないというのが現実です。つまり築後50年経とうが「古民家」でない「中古住宅」は古いだけで格別に魅力があるわけではないのです。
  •  長らく仲介件として預かっていた「中古住宅」にやっと買い手が付いた。それも売値を下げに下げて、殆どタダ同然だが、そのことを電話で告げると依頼者は売れたことで一安心していました。
     なぜ「一安心」なのでしょうか。それは単に解体費用を掛けないで済んだからです。大きな母屋と農機具倉庫。それに離れまで建っているから解体業者に頼めば数百万円かかる。その費用を考えるだけで頭痛の種だったそうです。
  •  「中古住宅」は兄の住居だったという。その兄夫婦は子宝に恵まれず、夫婦ともに病死した。相続した弟も遠隔地の島根県に暮らし、胆石を患って今年一月には手術して胆石を取り出し、長く病床に臥していたそうだ。
     中古住宅は兄夫婦が建ててから50年も経過しているが、古民家というほど巨大な梁や三尺の大黒柱などを用いた家屋ではありません。もちろん囲炉裏を焚いた家屋でないため、黒煤の風格もない。プレハブでない、というだけの平凡な中古住宅。
     買い手は敷地の広さに目を付けたようだ。土建業を営むという買い手は広い庭に重機などを置くという。家屋は盗まれ易い発電機や転圧器などを収納するという。つまり「倉庫」代わりに使うという。
     だが、それで「中古住宅」が「廃屋」にならずに済んだ。人が棲まなくなり「廃屋」になれば10年と経たずして家屋は朽ち果てる。そうした運命を辿らないで済んだことに弟は「良かった」と、買い手が付いたことに安堵した。それが地方都市の周辺部、田舎の日常風景なのです。
  • 令和元年5月
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  • 現実に即した不動産相続税改正
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  • 夫が 平成30年度の相続税法改正で、私たち不動産取引業者とも関係のある個所を抜き出して、簡単にご説明いたします。
  •  死亡した際の妻の取り分は、子がいる場合は遺産全体の2分の1と、民法で決められています。配偶者が残した相続財産が家と土地が中心だと、自宅を処分し売却金額の半分を受け取るという仕組みです。今までの自宅に住めなくなる不条理がありました。思い出の詰まった住宅を手放すことには、法律には沿った措置とはいえ、決して好ましい制度とは思えません。

     これを解決するため、改正相続法では「配偶者居住権」が創設されました。これは住宅の所有権と居住権を分離し、故人の配偶者が所有権を持たなくても自宅に住み続けることを保障する仕組みです。

     居住できる期間は、遺言や遺産分割協議をもとに決められます。この居住権の評価額は、配偶者の平均余命などをもとに決められますが、高齢になるほど評価金額は低くなり、相続財産が多くなる仕組みになります。

    ただし、所有権に比べると居住権のほうが弱いため、居住権登記の手続きをすることで、権利を確保する必要があります。この登記により、子などが所有権を一部は持っているため、所有権を他人に売却されることで、実際に住んでいる家からの退去という事態を防ぐことができます。

     配偶者の権利が認められるもう1つの改正は、婚姻期間が20年以上あれば、夫婦間で贈与された自宅は、遺産分割の対象から除外する仕組みです。

     自宅は残された配偶者のものとなり、遺産分割の対象から外され、それ以外の遺産を相続人同士が法律に沿って分割します。高齢の配偶者の安定した生活を支援することが目的です。



     親と同居していた長男の妻が介護で苦労したとしても、夫の取り分としては評価されても、相続人ではないため彼女自身の貢献度は評価されませんでした。今回の改正により、相続権はありませんが「特別寄与料」という制度が創設され保護されます。

     相続が発生した時点で、介護の貢献度に応じて相続人に対し請求できます。法律上の相続権がない人でも、特別寄与料の請求が法的に認められます。ただし親族以外の第三者が介護に協力したとしても、この特別寄与料は認められません。ますます深刻化する介護問題へ、1つの指針が示されたことになります。

     特別寄与料の請求先は義理の兄弟姉妹になるため、現実的にはかなり大変です。合意できないときには、家庭裁判所が提示している算式が参考になります。家庭裁判所での寄与分の算定は、1日当たり8000円程度を目安に介護した期間を掛けて算定しています。

    ただし相続財産の多寡により、特別寄与料も変わることが予想されます。実際の額は200~500万円程度が目安となるかもしれません。

     相続財産が少ない場合は、現実には100万円以下となり、家庭裁判所の基準に沿った受取額になるのは難しいケースも出てきそうです。



    <遺留分を正当な権利として保障>
     実際に遺言状が存在すると、故人の意志が尊重され、遺留分に満たない財産しか相続できない相続人が出てきます。遺留分とは、どの相続人にも認められた最低限の取り分で、法定相続分の半分にあたる額です。

     例えば、子の1人が親と生前から対立していたため、親が「あの子には財産分与をしたくない」と考え、遺留分を大きく下回る財産しか受け取れない遺言状を作成したとします。これまでは、遺言状に不備がなければ、ほかの相続人から遺言どおりの配分に同意を迫られ、しばしば問題になってきました。

     故人の意志を優先するか、法律に沿って遺留分を保障するか、これまではあまり明確でありませんでした。

    対立して結論が出ないときは、確実に遺留分の履行を求める側が家庭裁判所に持ち込み、調停や和解が成立しない限り、遺留分を獲得できませんでした。今回の改正で、遺言状の中身がどうあれ、遺留分の確保が権利として認められました。詳しくは税務署なり税理士にご相談されることをお勧めいたします。
  • 平成31年3月
  • リスト3

 



不動産相続にも「時効」の適用を。










 全国で問題となっている「所有者不明土地」をめぐり、法務省は11日、所有者が判明しない場合でも、裁判所の手続きを経て、土地の売却を可能とすることなどを盛り込んだ対策の骨子案を公表した。  所有者の氏名や住所が正しく記載されていない「変則型登記」の解消が狙い。同日から実施する意見公募(パブリックコメント)を踏まえ、通常国会に関連法案を提出する方針だ。(以上「時事通信1/11日付記事」より引用)



 先月のブログで「不動産登記法の改善を望む」と題して、不動産相続に関して所有権移転登記されない不動産の問題を投稿したばかりで、新年早々に「所有者不明土地」に関して前進することになり法務省の動きを心から歓迎します。
 実際に「所有者不明土地」は登記簿上に記載されているの所有者が既に死亡し、そして相続登記されないままかなりの年数が経過している場合にありがちです。所有者を確定するために戸籍などから相続人を捜しても該当者が見当たらず、従って取引も出来ないまま放置されている土地は山番地などに多く見られます。
 そうした「所有者不明土地」に関して、法務省は裁判所の手続きを経て土地売却が可能になる対策法案を通常国会に提出するという。まさしく朗報というべきですが、それなら所有者の死亡後に一定期間所有権移転登記されない土地に関して、一定の要件を備えている申立人を裁判所は「相続人」と認定する法案も提起して頂きたいと思います。
 「所有者不明土地」に関しても、おそらく時効と同様な観点から、たとえ後に相続人と名乗り出る者があったとしても「権利の上に眠る者は保護されない」との時効の考え方を適用すべきではないでしょうか。たとえば「相続移転登記」されないまま相当の年数(10年程度か)を経過した不動産に関しては、実際に当該不動産の固定資産税を支払っているなどの実態があれば「所有権移転の申し立て」を裁判所に行い、判決を以て「所有権移転」が認められる、という法律が制定されるなら、全国にゴマンとある所有権が相続人に移転されないまま放置されている不動産が売買可能になります。
 地方の不動産価格は驚くほど低いため、登記簿上の所有者が死亡していて、相続移転がなされないまま放置されている土地の売買を手がけるには費用が土地売却金額と見合わないケースがほとんどです。現在ではすべての相続人から「相続放棄」なり「相続分登記」を行った上でしか所有権移転できないため、すべての相続人の同意なり印鑑なりを揃える費用が嵩張るのを理由に、土地売買を諦める場合が多いのが現実です。そのため土地の有効利用が妨げられたまま放置され、さらに荒廃を招く事態になりかねません。そうしたことを解消するためにも「権利の上に眠る者は保護されない」という時効の考え方を適用ずべきではないでしょうか。

平成31年2月

 


不動産登記法の改善要望

 

 不動産を生業としている者は仕事上、不動産登記とは切っても切れない関係にあります。その不動産登記に関して以前「所有権」が現実の所有者と異なる場合があることに関してブログに書きました。その最大の原因は所有権者が死亡した後も、相続人に所有権の移転登記がなされないケースがあるからです。ことに地方の土地価格が安い地域の土地・家屋に関してそうした所有権の移転登記を放置する場合が多いようです。
 登記簿に現実の所有権者が登記されていない不具合を政府も認めて、登記簿の所有権者と現実の所有者とが合致するように法改正を行う方向で検討を始めたようです。
 所有権者もそうですが、登記簿には登記すべき「権利」が他にもあります。それらは用益権と呼ばれるものと担保権と呼ばれるものとの二種類あります。

<用益権>
 これらは、他人の不動産を使用収益する権利のことで、登記できるものに以下のものがあります。

地上権・・他人の土地などを建物を建てたり、竹木を所有したりできる権利のこと。
地役権・・袋路の土地から道路に出るなど有効活用のため、他人の土地を利用できる権利
永小作権・・他人の土地を利用して耕作などをする権利のこと
賃借権・・賃借人が他人の不動産を使用収益できる権利のこと
採石権・・契約によって、他人の土地などから岩石を採取できる権利のこと


<担保権>
 不動産を担保にしてお金の借り入れをしている場合にその不動産に設定される権利のことで、以下のものがあります。
不動産の登記簿をみることでその不動産に抵当権などの担保権が付いているかどうか分かるのです。

抵当権・・債権者が債務者から担保として不動産に登記し、他の債権者に優先して自分の債権弁済を受けられる権利のこと。
先取特権・・法律で定めるある一定の債権者が他の債権者に優先して弁済を受けることが出来る権利のこと。
質権・・債権者が債務の担保として、質に取ったものを占有できる権利のこと

 このように、登記できる権利は「所有権」の他にも様々なものがあります。これらの権利に関しても権利者と現実の権利者とが一致している必要があります。特に「用益権」に関しては権利者が死亡した場合に相続人すべてが同意しなければ「用益権」が消滅しないため、土地売買で大きな障害になるケースがあります。「担保権」でも抵当権の一種の「所有権移転の仮登記」には時効がないため、いつまで経っても「時効消滅」にならない不都合が生じる場合があります。こうした現実と乖離しやすい「権利」の登記に関して、第三者への対抗要件が権利者の「権利」を護るために登記するのであれば、「権利」主張なき権利者の権利は守られない、という法原則に基づき他の債権等の「権利」と同様に時効が適用されて然るべきだと思います。登記簿上に記載される所有権に関してやっと現実と登記簿上の乖離を解消する動きが出て来たことを歓迎するとともに、さらにもう一歩進めて他の用益権や担保権など登記簿に記載される「権利」に関しても現実に即した法改正が行われることを期待します。

平成31年1月

 

 




不動産が「負」動産になる。


 昨日も築50年余の民家の処分を依頼された。田舎の敷地200坪に建つ一軒家はいわゆる「古民家」ではない、古ぼけた老朽家屋でした。農家だったため長屋や米穀倉庫などもあり、なかなかの壮観としかいいようがありません。
 しかし売却するとなると「家」は余分となります。更地ならそれなりに買い手はつくかもしれませんが、値段は坪単価一万円が良いとこでしょう。そうすると敷地に建っている家屋を解体撤去するだけで「足」が出かねません。しかし、こうした不動産ではなく負動産が田舎にはゴロゴロしているのが現実です。
 団塊の世代はやっと70才になったところでまだまだ元気です。団塊世代の子供たちがこうした問題に直面するのは後十年後でしょうが、その前世代の子供たちが負動産問題に直面しています。彼らも高度経済成長時代に成年に達して、就職で都会へ出て行ったまま帰らないため田舎は限界集落だらけです。
 それでも古い田舎造りの家屋なら「古民家」として梁や柱を生かして改築し、蕎麦屋や雑炊屋として店開きしているケースも見受けられますが、戦後のプレハブ住宅なら手の着けようがありません。
 だから現況有姿で「買い手価格」で売ってはどうかと勧めるしかないのですが、そうすると相続した子供たちが憤慨します。生まれ育った家を「そんな捨て値」で売るわけにはいかない、という感情も理解できます。中には「バカにするな」と怒る人さえいますが、しかしそれが田舎の老朽家屋の現実なのです。
 人が住まなくなると家屋はアッという間に「廃屋」化します。時には野生動物が入り込んで荒らしたりします。そして廃屋であろうと、解体撤去に要する費用は変わらりません。なぜなら昔のように「野焼き」が出来ないため、廃屋も解体して金属と材木を分別して産廃処分場に持ち込むしかないからです。
 それが嫌なら都会暮らしに見切りをつけて、両親の暮らしていた田舎へ帰郷することをお勧めします。不動産を負動産にしないためにはそれしかないのですから。

平成30年12月

 





















不動産業者と「消費増税」

 

 土地売買に消費税はかかりません。そもそも土地は「消費」して消えてなくなるものではないからです。そういう意味では土地売買だけをしている不動産業者は消費増税だと無縁と思われがちですが、事実は大いに関係があります。なぜなら土地購入は「家」を建てるために購入するからです。実際に消費増税は不動産業者にとって手痛い影響があります。   2014年の消費増税8%の時も影響は甚大でした。なにしろ「家」は高額な商品ですから家の価格が2,000万円なら税率が1%でも税額が20万円になります。それが3%も上がったのですから新築契約を結ぶお客様は60万円もの負担増ということになります。前回の消費増税で日本経済は落ち込み、GSPは前年比マイナスを記録しました。

 そこで今回は消費増税の影響を少なくするために、値の張る自動車や「家」に関して増税緩和策をどうするなと政府は腐心しているようです。しかし最も良い政策は消費増税しないことです。
不動産業者の感覚からいえば、税収増を図るにはまずデフレ経済からの脱却に全力を注ぎ、日本経済を力強く成長させることが最善策ではないかと思います。

 高度経済成長期のように7%経済成長とはいわないまでも、数%ほど経済成長すれば成長に伴う物価上昇、つまりインフレになります。インフレ率が2,3%でれば1000兆円を超えた国債は実質的に20~30兆円も償還されたことになります。
デフレ化経済は不動産業者にとって過酷です。なぜならデフレ経済は実質的に貨幣価値が上がり、貨幣価値が上がることにより実質的に借金が増えるからです。そのため長期ローンを前提とする不動産市場が冷え込むのです。

 私たち不動産業者のためにも確かな経済成長政策が心から待たれます。消費増税には反対ですが、走り出したら止まらないのが「政府」のようです。何とかならないものでしょうか。

平成30年12月























ライフスタイルの変化に合わせて

 全国的に「家余り」現象が起きています。空家率が全国平均で13.5%と前年より0.4%増加しています。それで新築住宅は不要なのか、というと決してそうでもないようです。
 その原因はライフスタイルの変化にあるようです。
 特に首都圏などでは東京の通勤圏と東京都以外の近隣県にセカンドハウスを持って、都会での生活と田舎での生活を楽しむ人が増えているようです。それでは別荘かというとそうでもなく、セカンドハウスはあくまでもセカンドハウスで、古民家などを安く購入し、ホームセンターなどで材料を揃えてDIYでリフォームして週末ライフを楽しむのだそうです。
 山が好きな人は群馬県や遠くは長野県まで足を延ばし、海が好きな人は千葉県や茨木県などにセカンドハウスを持つのが今の流行りのようです。
 柳井などでも市街地に新居を求めた若い人たちが、両親が暮らしていた「実家」をセカンドハウスとして使っている例を見かけることがあります。ことに柳井市を中心とした地域は山あり海ありの自然豊かな地域で、都会暮らしと田舎暮らしの両方が手軽に楽しめる恵まれた地域でもあります。
 弊社は楽しく豊かな暮らしを支えるバラエティに富んだ不動産を今後もご紹介していきたいと思っています。

平成30年11月





















「持家不要」論を考える。


 経済評論家の上念司氏が「家やマンションを買ってはいけない」と主張しています。不動産を生業としている私たちにとっては由々しき発言だ、と思いながら続きを読みました。

 上念司氏は「買ってはいけないモノ」として、まず「家やマンション」次に「自動車」で三番目に「時計」を上げています。なぜかというと、家は既に世帯数を上回り、日本では過剰となっていて、空き家率が全国平均で13%に達しているから、買うよりも処分する方が大変な時代になる、というのです。

 (自家用)自動車は平均稼働率が極め低く、週末に乗る程度でしかないから維持・管理費を考えればレンタカーの方が安くつく、という説明でした。しかしそれは鉄路が網の目のように張り巡らされ、乗り遅れても2分と経たないうちに次の電車が来る大都会での話に限定されるのではないかと思えます。(腕)時計は確かに携帯やスマホで充分に代替できるし、街中にも時計表示は随所に溢れています。

 さて、最初の「家やマンションを買ってはいけない」論を掘り下げてみれば、上念氏は「家は年齢や家族構成で必要とする形態が異なる、だから賃貸で生活して、人生のステージで必要とする家を選んで転居する方が合理的だ」として「家やマンションは資産ではなく、生き方を限定する負債でしかない」という論を展開されています。

 確かに子育て期はある程度部屋数のある広い家屋が必要です。しかし子供たちが巣立って夫婦二人になれば、それほど広い家は必要ない、という論理展開には納得させられるものがあります。しかも少子化で「家余り」現象が全国的に起きている昨今、むしろ家を畳んで解体処分する必要性が高まっているのも事実でしょう。だが「家やマンション」は「自家用車」や「腕時計」と異なって、「持家」か「賃貸」かを問わず人としての暮らしに「家」は必要です。家がなければホームレスとして街を彷徨うしかなくなり、人としての社会性を否定されかねません。

  人により「持家」派と「賃貸」派とに分かれるとしても、いずれも棲家を必要としていることに変わりなく、上念氏は「持家不要」論で不動産業者がこの世からなくなると言っているのではない、と安堵して筆を置きます。

 

平成30年10月
















災害復旧について


 7月6日から降り続いた豪雨により、この近隣にも多大な被害をもたらした。現在も山陽本線の柳井-下松間が不通となっている。東海道本線に次ぐ鉄路の大動脈というべき山陽本線が一部とはいえ一月以上も分断されるのは「異常事態」というべきではないでしょうか。
 異常事態は私たちの身の回りにも迫り、友人宅の裏山が地滑りを起こして家と山の間に建てていた車庫を押し潰して、家屋に迫り基礎まで土砂に埋まった。幸いにも家本体が土砂に埋まることは免れ、風呂の焚口が埋まってガス・バーナーが破損しただけだったという。しかし車庫に入れていた新車の電気自動車は大破したそうです。
 そこまでだけでも大損害だが、問題はこれからで、屋敷に押し寄せた大量の土砂を取り除かなければならないし、地滑りした山をいかにして養生すべきかを考えて工事しなければならない。そこで行政に相談したところ山の所有者も屋敷の所有者も同一人物で一人のため、災害復旧事業とはならず、補助金の対象にもならない言われたそうだ。災害復旧事業として行政が関わるには被災者が二人以上でなければならない、との規定があるという。個人の山が崩れて個人の屋敷が被災したのは「個人」の問題だ、というのが行政の見解のようです。
 かつて里山は「入会地」で地域のものだった。しかし戦後に登記法が改正され「地域の土地」という概念は一掃され、個々人か法人の持ち物でなければならないとされた。そのため地域の者たちで話し合い「入会地」はそれぞれの屋敷の裏山部分をそれそれの屋敷所有者個人の持山に名義変更された。よってかつての里山の崩落や地滑りは個人所有の山の地滑りで、その被災者も同一個人の屋敷ということが多発している。
 最終的に友人は地滑りで隣の屋敷地まで被災したことから、二軒の被災ということになり災害復旧事業として「採択」される方向になったと胸を撫で下ろしている。高齢者が全額自己負担で災害復旧するには余りに荷が重い。被災した屋敷や崩落した山を放置してその地を去ったなら、同様の豪雨で災害はまた必ず起きる。国土強靭化政策とは何なのかと考えずにはいられない豪雨ではあった。

平成30年9月











土砂災害に思うこと

 今年7月7日前後に西日本を襲った豪雨による災害は平成最後の年にして最大の被害をもたらしました。豪雨災害で亡くなられた二百余名の方々のご冥福をお祈りし、併せて被災者の方々にお見舞い申し上げます。
 それにしても何かと釈然としない豪雨災害でした。ことに最大の犠牲者を出した広島市に関しては2014年8月の安佐南区の土砂災害の再現フィルムを見ているようで心痛むものがありました。
 4年前の安佐南区のニュース映像を見て、抉られたような地肌を見せる山の斜面に砂防堰堤が見当たらないのに驚いた記憶が鮮明に残っています。私たちの暮らしている山口県の防災工事が進んでいるのか、周辺の山々の涸沢にも砂防堰堤が設置されているのを私たちは知っています。しかし安佐南区の土砂災害地の急峻な山肌に砂防堰堤の痕跡すらなかったのには寒々とした覚えがあります。
 真砂土は水を含むと土砂化してすぐに崩落する、というのは不動産業者ならずとも誰しも経験から知っています。行政が作成したハザードマップでも土砂崩れ警戒区域に真砂土山の山麓の住宅地が指定されているケースを多々見掛けます。おそらく今回土砂災害に遭った安芸区や安佐北区の被災地もハザードマップで土砂災害の警戒区域に指定されていたと思います。
 そして安芸区の被災地では今年の2月に砂防堰堤が住宅地のすぐ傍の山麓に設置されたようです。しかし設置したばかりの砂防堰堤は建設を要望した住民の守にはならなかった、という残念な結果になってしまいました。
 安芸区の砂防堰堤を設計した当局は2014年の安佐南区の土砂災害を参考にしなかったのでしょうか。同じような真砂土山の傾斜地の涸沢に設置するのなら、安佐南区の被災地を襲った土砂災害を参考として、降水量と住宅地を襲った土砂の総量などは解っているはずです。そうするとどれほどの体積を持つ砂防堰堤が必要か。一ヶ所だけでそれほどの巨大な体積を持つ砂防堰堤を設置できないなら、涸沢の上方へも何ヶ所かの砂防堰堤を設置して、総容量として安佐南区の土砂相当を持つ砂防堰堤を設置しておくべきでした。2014年の甚大な災害を参考にしないのは安佐南区の犠牲者を冒涜するものです。
 砂防堰堤等の防災施設は決してお飾りであってはなりません。国土強靭化と口先だけで言うのは簡単ですが、その言葉にも国民の命が懸っていることを、当局のみならず国民すべてが認識を新たにすべきだと思います。

平成30年8月

 

 

 











土地が棄てられる

 土地がゴミのように捨てられる、といったら驚かれるかも知れません。都市部の人たちには考えられないかもしれませんが、山深い山間部や、街中でも三尺(幅90㎝)道しかない宅地は家の建て替えが出来ないため手付かずのまま放置された荒地が結構あります。そこで政府は「骨太の改革」で土地を棄てる権利と法手続きを法で制定しようとしています。
 現在の法律では不要な土地であっても買い手が付くまで勝手に所有権を放棄することは出来ません。土地を合法的に棄てるには相続まで待って、相続放棄によって棄てる他に方法がないのです。
 民法には「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」(第239条)との規定がありますが、土地放棄の手続きを定めたルールはありません。そこで廃棄物処理のように、土地の所有者が一定額を納めれば放棄できる仕組みなどを検討すねことにしているようです。
 ドイツの民法には「所有者が放棄の意思を土地登記所に表示し、土地登記簿に登記されることによって、放棄することができる」(928条1項)と明記されています。放棄された土地をまず先占する権利は「州に帰属する」(同2項)とも定められています。ただ放棄された土地は、どこかに所有させなければならない義務もないため、ほとんどは「無主地」として管理されるが、そのコストは行政が負担せざるを得ない。ドイツ国内でも地域によっては、無主地の増加による行政の負担増が問題になっているそうです。
 日本でも相続放棄により棄てられた土地は国に帰属し、その土地を購入したい人は裁判所に申請して裁判氏をが定める「管理人」の下で競売に付し、落札することによって土地を入手できます。ただその手続きが非常に煩雑で専門家に頼まなければならないケースが多く、しかも土地の安い地方などでは管理人などの費用が土地の売却価格を下回ると想定されるため、申請者は事前に裁判所が決める供託金を積まなければなりません。
 そうした煩雑さのためか国有地となった相続放棄地の払い下げが現実にはなかなか容易に進まないのが現状のようです。そうすると放棄された土地の草刈りなどの維持・管理など、ドイツと同じように日本でも「土地所有の権放棄」に関する法律が制定された場合には、固定資産税の減収と同時に放棄地に関する諸費用を何処が負担するのかが問題になりそうです。

平成30年7月






















不動産を「負動産」にしないために

 不動産を「負動産」と呼ばなければならない現実があるようです。それは資産だと思っていた土地や家が「負動産」だったという衝撃を表現したもののようです。
 たとえば相続で取得した田舎の親の屋敷を処分しなければならなくなった際に、老朽家屋を撤去しなければ買い手がつかないが、それかといって家屋の解体撤去費用が更地となった土地の売却価格で賄えない状況を表現しているようです。
 少子化により空き家が増加することは簡単な算式から理解できます。ほ若い二人が結婚したとして、その二人とも一人っ子だった場合、両方の親が持ち家だったら一軒の家が余る勘定になります。若い二人が都会に家を建てた場合では、両方の親の家が空き家になる可能性が高くなります。
 そうした空き家の処分を依頼されるケースがこれまでも何件かありましたが、問題は「負動産」の場合です。田舎の家は母屋の他に納屋や農業倉庫や長屋などがあって、それらが無駄に広く解体撤去費用がかさむ場合が多く、更地を売却した収入を上回る場合が往々にしてあります。
 不動産を「負動産」にしたくないなら、今住んでいる人たちが心掛けなければなりません。まず取付道路が最低でも幅員が2mなければ更地にしても利用価値は極めて限定的で、高く売れないばかりか、買い手すらつかない場合があります。隣接土地所有者と話し合って、公道から屋敷まで幅2mの道を確保しておきましょう。次に古民家として利用価値がありそうな家なら、広い駐車場を確保しておくようにしましょう。
 さらに行政が空き家を管理して借り手を斡旋する町もあるようですから、役場などで相談しておくことも良いかも知れません。もちろん私たち不動産業者と相談して長年の不動産取引の経験と知識を活用されることをお勧め致します。

 平成30年5月

 

 












柳井市の29年公示価格+4.74%


 平成29年の公示価格が公表されて、柳井市は平均で32,294円/㎡で+4.47%となった。公示価格が上昇したのは不動産業者としては慶賀の至りですが、それでもバブル当時の価格とは比較すべくもありません。しかし基本的に地価上昇しない限り、土地流動性もプラスにならないため、地価上昇は歓迎すべきことです。
 ただ土地購入者からすれば地価上昇は好ましくないように思えるかも知れませんが、購入した土地価格が引き続き下落したのでは資産価値が減じることでしかなく、それはそれで悪しきことではないでしょうか。
 大都市圏では早くから地価は上昇に転じていて、特にマンション用地は不足した状態が続いていました。しかしここに到って大都市圏のマンション需要も一段落したようで、むしろ中国人の爆買いによる投資用マンションが中国人の投資衰退に伴って下落しているようです。
 地方では大都市圏のようなミニ・バブルもなかった半面、今後もなだらかな地価上昇が続いていくのではないかと思われます。なぜなら地方の土地価格は地の底を這うような低価格状態が続いていて、新規分譲宅地開発を行うと造成費が販売価格を上回り、採算割れ状態が続いていたからです。それでは良質の宅地を供給することは困難で、既存の住宅地をリニューアルするしかありませんでした。しかし既存住宅地にはセットバックや北側車線などの様々な規制があって、リニューアルすると販売有効宅地面積が減少して、旧家屋の撤去費用などを土地売却で賄えない場合が多々ありました。
 良好な住環境を保ち、なおかつ安全・安心な住宅地を供給するにはどうしても地価上昇は不可欠です。土地取引が活性化すれば新築家屋も増加し、それが地域経済の底上げにつながります。平成29年の柳井市の公示価格が+4.74%を素直に喜び、それが経済活力の源泉になるように願いたいものです。



平成30年4月



























山まさに荒れなんとす


 柳井市周辺の里山を散見してすぐに気付くのは竹林の繁茂です。ある山では一山すべて竹林といった様子で、山が荒れているとの実感を強くします。
 竹は「破竹の勢い」といわれるように成長が早く、植林された杉などを一気に呑み込み枯れさせてしまいます。雑木も竹の勢いには敵わなく、全山竹林といった様子になったのでしょう。
 しかし本来竹林は人の暮らしに役立つように里山の一部に植えられたものです。春は筍を食し、成長した竹は伐採して割き家の壁などの「小舞」として使われました。さらに細く割いてヒゴとして籠や笊などに編んで日常生活の道具として使用しました。
 しかし安くて丈夫なプラスティック製品がそれらに取って代わると、竹は放置され繁茂するままに放置されてしまい今日の状態になったのです。
 しかし竹は真竹にせよ破竹にせよ孟宗にせよ、本州でも寒冷な東北地方以北には見られません。東北地方にある竹はクマ笹で、筍と称するものも鉛筆ほどもない細く小さなものです。
 竹林も間引くなどの手入れしなければ荒れ放題となり、利用価値の乏しい貧弱な竹ばかりになります。昨今は竹炭として利用する機運が生まれていますが、保水力や地力の涵養からも落葉樹などの雑木が育つ里山を取り戻すためにも行政がしっかりと里山再生に力を入れて頂きたいと思います。

平成30年3月

 

 





 

「都市計画」について


 都市計画法は不動産業者にとって業務で欠かせない法律です。土地売買契約締結時には顧客に説明すべき「重要事項説明書」の項目にもある用途地域などで必ず確認しなければなりませんし、土地を宅地造成する際にも都市計画法に従って実施しなければなりません。そうした私たち不動産業者に関りの深い都市計画法は昭和43年に制定されました。その概要は第一条から第三条にかけて以下の通り定められています。

「(目的)
第一条 この法律は、都市計画の内容及びその決定手続、都市計画制限、都市計画事業その他都市計画に関し必要な事項を定めることにより、都市の健全な発展と秩序ある整備を図り、もつて国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。
(都市計画の基本理念)
第二条 都市計画は農林漁業との健全な調和を図りつつ、健康で文化的な都市生活及び機能的な都市活動を確保すべきこと並びにこのためには適正な制限のもとに土地の合理的な利用が図られるべきことを基本理念として定めるものとする。
(国、地方公共団体及び住民の責務)
第三条 国及び地方公共団体は、都市の整備、開発その他都市計画の適切な遂行に努めなければならない。
2 都市の住民は、国及び地方公共団体がこの法律の目的を達成するため行なう措置に協力し、良好な都市環境の形成に努めなければならない。
3 国及び地方公共団体は、都市の住民に対し、都市計画に関する知識の普及及び情報の提供に努めなければならない。」(以上「都市計画法」から引用)

 昭和43年の制定以後もたびたび改正が行われて現行法になっていますが、目的や理念は一貫していて「 国土の均衡ある発展と公共の福祉の増進に寄与することを目的とする」ことと定められています。しかし具体的に不動産業者や顧客が都市計画法を身近に感じるのは用途に基づく色分けされた「総括図」ではないでしょうか。「総括図」とは第一種住居地域や工業地域などを特定の色で表示した地図のことです。
 土地取引で家屋建設が制限されている、あるいは特定の用途の建築物は建てられないなど、顧客に当然伝えるべき「重要事項」として不動産業者にはなじみの深い法律です。ただ法律が制定されてから半世紀がたち、地域によっては体に合わなくなった服にような部分もあるようで、都市計画法が地域の未来のあるべき都市建設に向けた「誘導」法なのか、それとも現状固定の「規制」法なのか議論の分かれるところです。京都などでは景観制限と高さ制限が訴訟で争われたりしましたが、地方都市でも高さ制限が半世紀以前に定められたままで良いのかという議論もあるようです。法律が制定されて半世紀が経過し、都市計画法も抜本的な見直しがそろそろ必要なのかも知れません。

平成30年2月

 

 

 

 





「私有地」ならぬ「死有地」について

新年あけましておめでとうございます

 本年も不動産業の傍ら日々の暮らしで感じた身の回りのことを書き連ねてまいりますので、拙く読み辛いとブログではございますが、なにとぞご愛読のほどよろしくお願い申し上げます。

 さて、新らしい造語として「死有地」というものがあるようです。以前にブログでも書きました通り、土地や家の登記簿謄本の所有者欄に記載されている名義人が死亡後もそのまま放置されている場合が見られ、そうした土地を「死有地」と呼ぶのだそうです。
 本来、土地などの登記は第三者対抗要件として登記し、所有権や他の地上権や抵当権など、不動産に関する諸々の権利義務関係を公明正大に知らしむるために行うものです。しかし土地や家屋の所有者が死亡後にその不動産を相続する者が多くいて遺産相続が未登記となったままのものもある半面、相続する不動産の経済的価値がなく、むしろ損失になるため相続登記をしないまま放置されている場合も珍しくありません。
 ことに相続不動産が山などの場合、各地の森林組合と「分収造林契約」を締結して造林を森林組合に被相続人が締結していた場合、相続する時点で森林組合の立替金が巨額なっていて、契約期間満了時に立木を伐採して売り払っても利益が出るどころか大きな損失が見込まれるケースがあって、法廷相続人の誰も相続しないまま放置している場合が多々あります。
 法に定められた「分収造林契約」とは50年間ないし80年間の造林契約を森林組合と結び、国から出る造林補助金で植林や造林を行い、山所有者の個人負担部分を森林組合などが立替えておき、契約期間満了時に伐採した材木を売り払って清算する、という制度です。制度が始まって50年以上経過して、清算年を迎える山もありますが、昨今の材木相場から赤字になることが予測されるため、相続人が相続を放棄するケースも少なくありません。もちろん、すべての相続人が相続を放棄すれば不動産は国のものになりますが、清算損失をだれが負担するのか、なかなか難しい問題です。
 「死有地」問題は今のところ不動産価格の低い田舎などの住宅地に関して問題視されていますが、「分収造林契約」制度をいかにして維持するのか、ひいては国土保全をいかにして図るのか、重大な問題を抱えています。全国の森林組合などが立替えている「造林経費」だけでも総計すれば巨額になるため、「死有地」についてどうするのかは現代の不動産が抱える今後の大きな政治的課題でもあります。

平成30年1月

 

 

 








ー「地名」考ー

 不動産業に最も関りが深いのは地名です。数多くの地名を目にするうちに、いつしか地名に関心を持つようになり、その由来等を考えるようになりました。そこで地名から読み取れる土地土地の歴史や成り立ちを思うままに書いてみたいと思います。柳井市にも地名からその地域の成り立ちや人が住み着いた概要が年輪のように読み取れます。例えば駅北の旧市街地の「天神」や「姫田」や「山根」などからはその地域に人が暮らし始めた江戸期以前と解りますし、「新庄」「与田」「伊保庄」など江戸時代の新田開発期の地名と思われるものが整然と地域を画しています。
 しかし、そもそも日本の地名とはどのようにして決められたのでしょうか。
 古代人がたまたま棲みついた土地に関して、他地域に暮らす人たちに紹介する際に、何処から来たかを説明する必要から「地名」が発生したといわれています。たとえば「川のほとり」とか「高い山の麓」とかなどです。それは漢字伝来の西暦300年代以前のことで、当時の日本人が話していた大和言葉で表現されたもので、後に漢字が当て嵌められ漢字表記された「地名」ではありません。
 しかし奈良朝廷が確立されると地方支配を合理的に進めるためにも「地名」とその地域の産業などを掌握する必要が生じてまいりました。そこで和同6年(713年)に全国に風土記を編纂して報告するように命が下されました。
 風土記編纂事業の主な内容は以下の五ヶ条でした。
1,諸国の郡郷の名に「好字」をつける。
2,郡内の産物の品目。
3,土地の肥沃の状態。
4,山川原野の名の由来。
5,古老(ころう)が伝承している旧聞異事。
 以上を史籍に記載して提出することとしました。ここで注目すべきは郡郷の名を「好字」とすべきとしたことでした。それは漢字二文字の嘉字(喜ばしい文字)に改めよ、ということでした。
 「嘉字」に関して一例をあげますと、例えば出雲地方を記した「古事記」で「肥(ひ)川」とある川は「日本書紀」では「簸(ひ)川」と表記され、それが「出雲風土記」では「斐伊(ひい)川」と、漢字一字から二字に改められています。
 当然周防国でも漢字二文字に地名が改められたはずですが、柳井市周辺には古地名と思われる地名が未だに残っています。例えば「田布呂木」や「宇佐木」や「田布施」などは風土記編纂で「漢字二文字」にすべきとされた命令に当て嵌まっていません。奈良朝廷に唯々諾々と従うのを潔しとしない勢力が割拠していたのかと推測されます。ちなみに熊毛は風土記以前の表記は「久米計」と書かれていたようで、意味は川辺の農耕地という意味のようです。同様に熊本は川辺の農耕地でしかも川の「元」、つまり河口を指している、ということのようです。
 そのように「地名」は地域の由来を確かに示す戸籍のようなものだ、ということが解って戴けたと思います。いつか「地名学」という分野が学問的に成立して、全国各地の地名から縁起や由来が解明される日が来るかも知れません。

平成29年12月

 

 













ー不動産は「不動」の資産かー

 不動産に関して昨今問題になっているものに廃屋があります。放置され棟が崩れた荒れ屋敷は景観的に問題があるだけでなく、不審者の無断侵入による失火など、問題はその地域の社会事情も反映して多義にわたります。
 まず廃屋の問題を考えるときに、居住家屋が廃屋になる原因から考えなければなりません。廃屋とはいうまでもなく住む人がいないから廃屋なので、廃屋になって人が住まなくなったのではありません。
 では、人が住まなくなったのはなぜでしょうか。先の大戦まで「家」は嗣子が相続するものとされていました。敗戦を迎えるまで日本で「家族」は夫婦単位とする考え方ではなく、「家」を中心とした男子直系を柱とする家系重視の考え方でした。「家」を相続する者がいないということは家系が絶えることで、嗣子に恵まれず自分の代で家系が絶えてはご先祖様に申し訳ない、として男子を「養子」として迎え、家系の存続を図ったものです。
 しかし今では個々人を中心とする考え方が社会の隅々まで浸透し、「家」は暮らすための入れ物、つまり寒暑・風雨を凌ぐ大きな「箱」でしかない、という考え方が大勢です。だから家屋建築にしても日本古来の伝統的な入母屋や切妻や寄棟といった手法を無視した、西部劇の大道具のような「家」が多くみられるようになりました。
 家も耐久消費財の一種だとするなら「不動産」は暮らす者の観点ではなく、家を中心とした見方であって、人を中心とする観点からすれば家は「不動産」ではありません。子供が成長して服が小さくなって新しい服を買い求めるように、暮らし方の変化から「住み替え」をしているに過ぎません。それを専門用語では「不動産の流動化」と呼んでいるようです。今後は一層、不動産の流動化が進行すると考えなければなりません。不動産は決して「不動」の資産でもなければ、解体整地費用を考えれば、土地の値段の安い田舎などでは資産ではなく、むしろ「負債」だという経済的な厳しい現実が放置廃屋を生んでいる大きな一因だといわざるを得ません。

平成29年11月

 

 

ー土地の取得と時効についてー

 

 世間一般に貸金や犯罪などに「時効」があることは知られています。テレビで「貸金業者から過払い金が取り戻せます、ただし最後の支払いから10年を経過すると取り戻せません」との文言を聞いたことがあるでしょう。それが「時効」だということは何となく理解しているのではないでしょうか。そこで今月は「未分割不動産」(相続人が多数いて、相続分が未確定のままの不動産)に関して相続人の総意が得られないとして、廃屋のまま放置されている問題がテレビなどで取り上げられていることから「時効取得」のについて不動産業者の立場からブログを書いてみました。

 そもそも時効とはーー長い間続いた事実状態を尊重し、その状態が法律的に正当でなくとも、これを正当な法律状態と認めること、と民法に書かれています。つまり時間の経過とともに社会通念上定着した事実関係を法的に前提として認めようというものです。金銭貸借における時効は「消滅時効」として広く知られていますが、不動産の場合にも「時効取得」があることは意外と知られていません。
 取得時効(しゅとくじこう)に関しては民法第162条(所有権の取得時効)と民法第163条(所有権以外の財産権の取得時効)に定めてあります。それは他人の物または財産権を一定期間継続して占有または準占有する者に、その権利を与える制度です。 そして時効取得については長期の取得時効と短期の取得時効があります。長期の取得時効(民法第162条1項)は20年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有することによって所有権を取得できるとするもので、また短期の取得時効(同条2項)は10年間、所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した場合で、さらに占有を始めた時に善意・無過失であった場合に認められものです。
 また所有権以外の財産権を取得する場合については、民法163条によって規定されています。簡単に説明しますと、所有権以外の財産権を自己のためにする意思をもって平穏かつ公然に20年または10年これを行使することで取得できる、という規定です。20年と10年という期間の違いは所有権の場合と同様、占有を始めたときにそれが他人の財産権であると知っていれば20年で、そうとは知らず、知らないことについて過失がないならば10年ということです。

 その規定を相続財産にも適用すれば現在のような放置された廃屋などの問題も「相続の放棄」をすべての相続人から同意を取らなくても片付くのですが、現在は相続財産の処分については「時効の適用」を容易に認めていないようです。しかし法改正の動きがあるようで、もしかすると近い将来に「10年間の継続した固定資産税」の支払者を以て相続人とみなす、といった取得時効の積極的な援用が実施されるようになるかも知れません

平成29年10月

 

ー土地取引と所有権ー


 土地取引を行うと土地所在地を管轄する法務局に「所有権移転」の登記を申請することになります。今更指摘されるまでもなく社会常識で誰もが知っていることと思割れがちですが、必ずしもそうでもないようです。特に相続で土地の所有権を取得した場合などでは所有権者の名義を変更していないケースに出会うことが多々あるからです。
 そもそも登記制度は明治四年の廃藩置県により土地売買が自由になったことと、私有地に地券(壬申地券)が発行されたことにより地租制度が始まりました。その折に各土地の面積を正しく把握する必要から、太閤検地以来の一筆ごとの地押丈量(測量)が実施され、明治14年に測量が終わったようです。古い公図はその当時のものにまで遡ることもあるようです。
 しかし地券に基づく地租制度(土地所有を担税力とみなして課税すること)はやがて終わり、地租制度から土地台帳法に代わりました。それが課税制度(固定資産税)の基礎となり、国による不動産課税制度が長らく続きました。

 終戦後、昭和22年GHQの指導によるシャープ勧告で税制改革を迫られ、昭和25年以降税務署に代わって市町村が固定資産税課税を行うことになりました。それに伴い土地台帳と付属地図(公図)の管理が税務署から法務局へ移管されることになりました。そして昭和35年の不動産登記法改正により現在の不動産登記制度が出来ました。
 登記簿謄本には「表題部」と「権利部」があります。「表題部」は建物の新築もしくは登記されていない不動産を取得したら1ヶ月以内に登記しなければならない決まりになっています(違反した場合は10万円以下の過料が課されます)が、不動産の権利関係を表示する「権利部」の登記は任意とされています。本来不動産登記は第三者対抗要件(合法的な所有権者であることを証すること)を表示するために行うためのもので、所有権を獲得した者が所有権移転登記をしないことはあり得ないという前提から、そうなっているようです。
 ちなみに、固定資産税は現況課税されるので登記の有無にかかわらず、現況により市町村が不動産の関係者と認める者に税が課されます。「権利部」への登記の任意性が「所有者」の死亡後もそのまま登記簿の名義変更が放置され、売買の時になって登記簿上の「所有権者」と実際の土地所有者が異なるという不都合に直面することがあります。ことに代々受け継がれてきた農地や山林、古民家などの売買では珍しいケースではありません。

                                                 平成29年9月

 


ー沽券についてー

 不動産業者として関係の深い土地の所有(権)について日本の歴史を少しばかり辿ってみたいと思います。

 日本で土地の私有権が認められたのはかなり昔からだったようです。中学校の歴史で学んだように奈良時代の前期に「三世一身法」(723年)また聖武天皇の時代に「墾田永年私財法」(743年)などは土地私有を認めている証拠になります。

 その土地に関して「沽券」と呼ばれるようになったのは平安時代に入ってからのようで、そもそも沽券とは「去り状」「避文」(さりぶみ)のことで、手許から離れることを表していたようです。それが土地を売買して所有権が移転する際に文書として「沽券」を書いて、所有権が自分の手許から離れたことを証文として残したのが始まりで、後に「沽券」が土地の「権利証」のような扱いを受けたようです。

 江戸時代になると黄表紙本の東海道中膝栗毛にも「沽券」は登場し、現代の「権利証」(不動産登記情報)と同様な扱いを受けていたようです。ただ当時は現代のような登記役所(法務局)がなかったため、土地を巡る争いは絶えなかったようです。ちなみに「沽券に関わる」という言い方は体面や品位を汚すことに対する矜持を示す言い方で、男性にだけ用いられていました。土地の所有権者の多くが男性だった当時の常識を反映したもののようです 

平成29年  8月